4−4 サイバースクワッター
「はい……。『 e-sports-festival.jp 』みたいな、誰が見てもわかりやすい名前が欲しくて検索したら、たまたま空いてたんです。しかも数千円で」
小島くんは、その時の「幸運」を呪うように、ギュッと拳を握りしめた。
「ラッキーだと思って、お小遣いで購入して……サイトを公開したんです。そうしたら……」
「すぐにこのメールが飛んできたってわけ?」
「はい……。それだけじゃないんです。問い合わせフォームから100件くらい『サイトが見れないぞ』とか『メールが届かない』って苦情も殺到してて……」
ただの高校生が受け止めるには、あまりに理不尽で巨大な悪意の奔流。
正規の手順でお金を払って買ったはずの「商品」が、一夜にして「盗品」扱いされている。
「ちょっとまって」
隣で話を聞いていた七香が、スッとスマホを取り出した。
普段は映えるスイーツや推しの情報を追っているその指先が、今は驚くべき速さで検索ワードを打ち込んでいく。
彼女のこういう時の集中力は、一種の才能だ。
「あ、これだ。ビンゴ」
数秒後、七香が画面を私に見せてきた。
「メールの署名に書いてある企業で検索したら、イベント会社だったみたい。ほら、立派な公式サイトも出てる!」
七香のスマホには、いかにも業界大手といった感じの企業サイトが映し出されていた。どうやら企業のイベント用のドメインだったみたいだ。
「ええっ!? ぼ、僕、そんなつもりじゃ……ただ、買っただけなのに!」
彼は再び頭を抱え込み、机に突っ伏してしまった。正規の手順で、誰も使っていない空き家を買ったつもりが、実は大豪邸の表札だった。しかも元の住人が「泥棒!」と怒鳴り込んできている状況だ。
私は七香と顔を見合わせた。 七香は「どうする?」と目で問いかけてくる。
「……大丈夫だよ、小島くん」
私は彼の肩に手を置き、務めて冷静に言った。私の頭には、世界で一番頼りになる、やっかいな存在が浮かんでいた。
<つづく>




