4−1 放課後の平和は破られる
遠くから聞こえる吹奏楽部の音色が、少しだけ音程を外して聞こえるのが、いかにも「放課後」という感じがして悪くない。
私は窓際の席で頬杖をつき、スマホの画面をぼんやりと眺めていた。
今日の夕飯、なんにしようかな…。
冷蔵庫には豚肉があったはずだから、生姜焼きか、それとも…。
あ、そうだ。アロマオイル、そろそろ買い足しておかないと。
穏やかで、少し退屈、そんな私の平和な時間は、いつものように唐突に終わりを告げる。
ガラララッ!!
乱暴な音を立てて教室の引き戸が開かれた。
「つ・む・ぎぃぃぃぃ!!」
「……っ、ぐふっ!?」
名前を呼ばれたのと同時に、背後からふわりとした温かい塊が覆いかぶさってきた。私の首筋に、サラサラとした髪が触れる。シャンプーの甘い香りと、微かな汗の匂い。そして日向みたいな暖かさ。私の親友にして最大のトラブルメーカー、七香だ。
「ちょ、七香……重いってば。暑苦しい」
私は文句を言いながらも、背中に預けられたその体温を振りほどいたりはしない。七香の体温は、少し高めで、触れているとなんだか安心する。……なんてこと、口が裂けても言ってはやらないけれど。
「緊急事態! 緊急事態発生だよ、紬!」
七香は私の背中にへばりついたまま、耳元で叫んだ。鼓膜がビリビリする。
「はいはい、今度は何? 学食の限定プリンが売り切れた?新作スイーツの発売?」
「違うって! もっとヤバイやつ! 学園の存亡に関わるレベル!」
七香が私の肩を掴んで、強引に自分の方へ振り向かせた。その瞳は、どこか面白そうな光を宿している。
……嫌な予感しかしない。
<つづく>




