番外編3−4 保守運用
「ふぅ!いい仕事したー!」
七香が、ふわふわモコモコになった私のベッドにダイブし、にやっと笑ってきた。
「さて?報酬の件ですが?」
「わかってるわよ。駅前の限定タルトでいい?」
「交渉成立!」
七香が跳ね起きる。その顔は、やっぱりリスみたいにクルクルと明るい。
勢い込んで立ち上がって、部屋を出ていこうとする七香の足がピタリと止まった。
「どしたの?七香?」
七香の周囲が空気が、陽炎のように揺れている。
「いっこ、忘れてた……」
そう言うと、クルリと踵を返して、壁に貼ってある日本地図を剥がしだした。
「ちょ、ちょっと、それ!」
「こんなものいらない、JKには無駄!無駄無駄無駄!」
「ちょっと!いまでもたまに使っているの!」
「なんのため?JKが日本地図を何に使うのよ?日本地図じゃ原宿の場所はわかんないでしょ?」
「え?県庁所在地を知りたいときとか……」
「Google Map使え!ChatGPTに聞け!」
「ええ〜、でも……」
「JKには日本地図はいらないの!県庁所在地?そんなん知らなくても生きていける!必要なのは、もっと生死に関わる知識!コスメとファッションとJ−POPの知識だけ!」
七香は、日本地図のポスターをくるくるって丸めて机の上に置いた。
「いい?ちゃんと捨てておくのよ?これは覚醒の儀式なの。捨てなければ生まれない!」
七香、今日はどうしちゃったのよ…、さっきアッガイ隠しておいてよかった……。
「ベッドよーし!本棚よーし!壁よーし!」
七香は駅員さんみたいに指差し確認している。そこまでしなくていいんじゃないの…?
「よし、一旦は大丈夫そうね!あ、そうそう。紬。大事なこと忘れないでね?」
「何?大事なことって」
「メンテナンス。服を脱ぎっぱなしにするとか、読んだ本積み上げるとか、絶対禁止ね!」
「…うぅ」
「セキュリティと一緒。入れて終わりじゃないのよ。日々の積み重ねが大事なんだから」
パパが言いそうなことを、七香に言われるとは!
「わかったよ。努力します。先生」
「よろしい!では、改めて駅前にレッツゴー!」
ローズの香り、ピンクのクッション。七香の趣味丸出しだが、決して嫌ではない。
むしろ、心地いいかも。調子に乗るから、七香には言わないけどね。
私は部屋を出る時に、本棚のくまのぬいぐるみを、そっと撫でた。あとでアッガイと仲良くしてね。
<番外編3 女子力パッチ 完>




