番外編3−3 パッチ・アップデート
「まずは、この殺風景なベッド周りから!」
七香が取り出したのは、ピンク色のクッションカバーと、白いモコモコのブランケットだった。
「え、ピンクって…私のキャラじゃなくない?」
「いいの!自分の部屋でぐらい、キャラ変しなさい!はい、これ並べて!」
言われるがままに、クッションを並べる。急にファンシーショップの売り場みたいになってきた。
「なんか、寝れなくなりそう……」
「いいの!目を開けて寝るわけじゃないでしょ?目を瞑ればみんな一緒!」
う、なにも言い返せない。なんで今日の七香はこんなに頭の回転が早いのよ……、
「次は本棚!この味気ないスチール棚もなんとかしたいけど…とりあえず…」
そう言うと、七香は、本棚に収まっている本を片っ端から取り出した。
「ちょ、ちょっと七香!それ結構読んでるんだけど?」
「ダメ!JKが池波正太郎とか江戸川乱歩とか、漢字だらけの本とかありえないから!JKは『読む』んじゃなくて『見る』の。はい、江戸川乱歩アウトー!代わりにパステルカラーのくまちゃん、イン!」
「ああっ!私の乱歩先生が!」
「池波正太郎もアウト!代わりにこの色とりどりのガラス瓶、イン!」
七香の剣幕に押されて、私の大事なコレクションが次々とクローゼットの中に封印されていく。本棚には、池波正太郎の代わりにパステルカラーのくまのぬいぐるみが、江戸川乱歩の代わりに、色とりどりのガラス瓶やらが置かれていた。
「…七香?そのビンなに?」
「これ?ファンデとかネイルとかグロスとか…あんたメイクとかしてる?いつもスッピンじゃない」
「私だってメイクぐらい…色付きリップとか」
「小学生か!JKなんだから、少しはメイクぐらいしなさい!こう言うのが女子力アップに繋がるの!」
いつの間にか本棚に『メイクのやり方』みたいな本が収まっていた。私はその本を手にとってパラパラめくってみる。私だって、メイクぐらい……できていると思うけど……。
「七香もメイク……してるんだよね?」
「あたりまえじゃん。ファンデとグロスぐらいだけどね」
じっと七香の顔を見てみると……たしかに私と違って唇もぷっくりツヤツヤだし、目の周りも赤くなっている気がする。
「そして、仕上げは、コレ!」
七香がドヤ顔で出したのは、アロマディフューザーだった。
「いい匂いは、空間のセキュリティ強度をあげるのよ。ローズの香りよ」
スイッチを入れると、シュゥゥという音とともに、甘ったるい香りが部屋に広がった。
「…どう?」
七香が満足げに腰に手を当てた。
本棚からはくまのぬいぐるみがこっちをみている。ベージュとグレーの空間だった私の部屋が、ピンクと白と甘い香りに包まれている。
とても、自分の部屋とは思えない。
「…なんか、落ち着かない…」
正直な感想を言うと、七香が頬を膨らませた。
「もー!慣れよ慣れ!今までが異常だったんだから、普通に慣れなさい!」
「異常扱い…」
でも…まあ、悪くないかも。
殺風景だった部屋に、七香の体温が残っている、そんな暖かさを感じる。
「…ありがとう。これで明美ちゃんを部屋に入れても大丈夫、かな…」
「でしょ?これで紬の部屋も、女子力バージョンが上がったよ」
<つづく>




