2−10 モザイクの向こう側
放課後、空はオレンジ色と紫が混ざり合うマジックアワーだった。
「やったね紬!また一つ世界を救っちゃった!」
隣を歩く七香が、自身の影を踏みながらはしゃいでいる。
「大袈裟な。世界は救っていないよ。ただQRコードを直しただけ」
「もー照れちゃって。今回も鮮やかだったよ。セキュリティ探偵さん」
「だから、その呼び方止めてってば!」
私は七香の頭にチョップをした。
全く七香は懲りておらず、テヘって顔をしただけだった。まったく!
「さて、今日は何食べよっかなー、新作のパフェとかー?」
七香はテーブルに置いてあるQRコードを自分のスマホで読み込んで、メニューを調べている。
最近のお店のオーダーは、この形式が増えてきた。
「えー?何ー?ちょっと、紬、これ見て!不正サイト!」
「ちょ、七香!声が大きい」
七香が見せてきたスマホの画面には「新作パフェ、SOLD-OUT」の文字が踊っていた。
「私の楽しみにしていた新作パフェが売り切れなんて!不正アクセスの仕業に違いない!」
「そんなわけないでしょ!単純に人気なだけ!」
「いや、そんなことない!店員さんに聞いてみる!店員さーん、このQR偽造されてまーす」
「ちょ、止めてよ、七香」
いつもの店長さんが、慌てふためいて、厨房から出てきた。
七香が一生懸命に「不正アクセス」を訴えているが、店長さんの説明は「大人気でして…」と言っている。
その脇を、私は他人のふりをして席を立ち、ドリンクバーへ向かった。グラスに氷を入れながら、騒がしいテーブルの方を振り返る。七香はまだ店長さんに何かを熱弁し、店長さんは困ったように、でも少し笑っていた。
「…平和だなぁ」
氷がカランとコップの中で音を立てるのを聞きながら、小さく息を吐いた。
しばらく席に戻るのはやめようかな。でも、七香の分のおかわりも持っていってあげるか。
なんだかんだ、この騒がしい親友との時間が嫌いじゃないし。
<ミステリーボックス 完>




