番外編8ー6 ラオウ、時間を気にする
「じゃ、次は紬ちゃん」
「は、はひ!」
「山田さん、相手して。今度はヘマしないように」
九美さんの小さい声が、みんなに電気ショックを与えたように空気が変わっていくのがわかる。
「押忍!」
それを受けて、一際大きな山田さんの声が切羽詰まったように響き渡る。
「紬ちゃんは、これ持ってね。練習用の警棒。本物じゃないから思いっきりこれで叩いて大丈夫」
九美さんが山田さんから目を離さずに、警棒を渡してきた。
「え? この棒で叩くんですか?」
「大丈夫、みんな訓練しているし。これぐらい捌けないと、何やってるんだって感じだから」
黒くて重い、剣道の竹刀みたいな棒を持たされた。
――え? これで人を叩くの? 流石に痛くない?
「じゃ、お互いに礼」
「押忍!」
「も、もす!」
――変な声が出ちゃった。
棒を振り上げて、山田さんの足や腕を叩いた。ただ、流石に本気で叩けないから、軽めに……。
「紬ちゃん、もっと本気で!」
九美さんの声が響く!
え? そんなこと言われても…
「オラー!こいやー!」
山田さんの怒号が響いた
「ヒイィ!」
夢中で棒を振り回して、山田さんを叩いた。
でも全てスカされたり、手とか足でブロックされて、一向に体に当たらない。両手で警棒を持っているけど、振り回されて体がフラフラする。
――もう腕が限界。今何分たった?
チラっと時計をみたら、まだ三十秒しか経ってなかった。
――え? まだ三十秒? あと四倍も続けるの?
結局、二分間も動き続けることができず、その場に座り込んでしまった。
「紬ちゃん、大丈夫?」
「は、はい、こ、こんなにきついなんて」
「そうね。棒も重量があるし、振り回すと遠心力で重くなる。それを二分間振り回すって相当体力が必要なの。普通の人はせいぜい三十秒、頑張って一分。つまり、相手が武器を持っていても、一分間耐えれば逃げることができるってこと」
「は、は、はい。そ、うですね」
息が切れ切れになって、返事をするのがやっとだった。
「だから襲われた側は、できるだけ時間を稼ぐ。逆に襲う側は短期間で勝負をつける必要があるの。そこに焦りが生まれるから、それを利用して反撃か逃げるかするってこと」
「通常は男性の方が体が大きいし、重い。女性の方が軽い。だから自分は最小限の動きで相手を疲れさせることができれば、逃げるスキが作れるの。だから接近戦は絶対ダメ、相手の得意なものに付き合う必要ないでしょ?」
――そうか、これって、セキュリティのインシデント対応、例えばDDoSの通信を回避させてその間に調査特定するのと同じ考え方だ!
<つづく>




