番外編8ー3 ラオウ、警視庁に現れる
エレベーターを降りた私たちは、異様な雰囲気を感じていた。
ちょっとすえたような匂い、奥の方から響いてくる振動と掛け声のようなもの。まるで真空の宇宙空間がこの先にあるみたいな、表現し難い威圧感が廊下の奥から漂ってくる。
「ここ?」
「うん、この先って書いてあるね」
七香が指差した先の案内表示には、「武道場」と書いてあった。
「七香? なんでさっきの人、敬礼してたの?」
さっき感じていた違和感を聞いてみた。
「なんか名前言ったら、『先生の妹さんですか!』って言ってた」
――七香、あんたすごい姉、持っているね。
「ここみたい」
武道場と書かれたその部屋の奥からは、怒号と振動が混ざり合って流れてくる。
「……失礼しまーす」
ドアを開けると、それに加えて熱気と、押しつぶされそうな圧力があった。中には、岩のような体をした男性が十数人と、あまりにも場違いなギャル、九美さんがいた。
おそらく私たちより頭一つ以上はある大男の群れの中に、私たちとそんなに変わらない大きさのギャル。
まるで、猛獣の群れに紛れ込んじゃったオカメインコみたいな図柄。でも九美さんの威圧感が、ヤバい。例えるなら、猛獣の群れの中のプレデター……。
――みんな狩られちゃう絵しか、想像できない。
どうしようかと入り口でモジモジしていると、近くにいた事務のおじいさんが、声をかけてきた。
「これはこれは、可愛らしいお客さんだな。何か用事かな?」
「あ、あの私たち九美さんに招待されて…」
「ししょー、それ私のお客さんだから、手出しちゃダメ。お触り禁止ね」
気づいた九美さんが、近寄ってきてくれた。
――え? 師匠? このおじいさんが? 事務の人ではなく?
「紬ちゃん、あと、明美ちゃんね。七香から聞いているよ。さ、入って、端っこの方に座ってて」
「あ、あの、この方は?」
「あ? これ? 私の師匠。この格闘術教室の本当の先生。本当は師匠が指導するんだけど、めんどくさいって私に押し付けているのよ」
隣の師匠さんは、かっかっかって笑っていた。
どう見ても学校の用務員さんのような、ニコニコしているお年寄りを眺めた。
――この人が九美さんの師匠? 強そうに見えないけど……。まあ九美さんもそうだけど……。
「じゃ、ちょっと紹介するね」
九美さんは、岩のような男性の中に戻って行った。
「はい、皆さん、一旦やめー」
「皆さん、紹介します。今日はゲストがいます。私の妹の七香と、その友達の紬ちゃんと明美ちゃんです。ご覧の通りチョー可愛い女の子だからって、いいカッコしようとか、まじありえないから。普段通りで」
「押忍!」
全員の声が道場内に響き渡る。
「では、次の練習!」
<つづく>




