番外編8ー1 ラオウ、邂逅する
小峰は本店(警視庁)にきていた。
交番勤務とはいえ、研修などで本店に来なければいけない時がある。今日は「新しいネット犯罪」の研修で、朝から本店に来なければならなかった。
――本店はいかにもって感じだが、やはり交番の雰囲気もいいよな。
そんなことを考えながら受付で名前を書いていると、何かが視界の端に見えた。同時に何かキラキラしたもの。パステルカラーの何か。脳が「それ」を認識したのと同時に、全身の毛穴という毛穴が恐怖で開き、鳥肌が波のように広がった。まるで、無数の目に見えない蟲が、皮膚のすぐ下を一斉に這い回っているかのような、おぞましい不快感が背中を駆け上がる。
小峰は、意を決して後ろを振り向いた。
――あ、あれは?!
茶髪のロングヘアー、パステルカラーのアウター、そして馬鹿でかいヘアピン。
――あれは、あの時のラオウ!?
――なんで警視庁に!?
――まさか国家転覆を狙って襲撃にきたのか?
小峰は気付かれないように、そっと後をつけた。思わず腰に手をやるが、銃も警棒も装備していないことに気づいた。周囲を見渡すが、武器になりそうなものはない。
――いや、ここは警視庁だ。それこそ百戦錬磨の猛者がいる。
しかし、その屈強な警察官達が、まるで本能的な畏敬を抱くように、もしくは生理的な防衛本能が働くように左右に分かれて、道を譲っていく。その様は、『モーゼの十戒』のようであった。その警察官達とは対照的に、ラオウ自身は手をヒラヒラとさせて、まるで近所のご老人達に挨拶をするように歩いている。
エレベーターに乗って、地下に降りるようだ。エレベーターの前に立ったラオウに、隣にいた警備の警察官が、即座にエレベーターのボタンを押して、直立不動で立っている。
その警察官に対しても、まるで近所の八百屋の店主に「今日のオススメある?」ぐらいの気軽さで手をあげて、エレベーターの箱に乗り込んでいく。その歩く重厚感。ラオウ一人しか乗っていないのに、エレベーターが重量オーバーのブザーが鳴るような錯覚を覚えた。
急いで階段を使って地下に急ぐ。そこには、廊下をゆっくりと歩くラオウの姿があった。まるで自分の母校を訪ねてきた卒業生のように、空間を捻じ曲げるような圧倒的な威圧感を持って悠々と歩を進めていた。
<つづく>




