8ー11 平和な駅前の日常
小峰拓也は、交番の前に立って大きくのびをして、雲ひとつない青空を眩しそうに見上げていた。
小峰は先日のことを思い出していた。あんな事件はコリゴリだ。逮捕した男の余罪がボロボロと出たらしい。なんでもゲーム経由で女の子を誘い出し、未成年へのわいせつ行為や脅迫までしていたとか。それだけではなく、知り合いの女性を使っての脅迫行為。いわゆる『美人局』行為も行っていたらしく、被害届も既に数件出ていて悪質な常習犯だったようだ。実刑は免れないだろうな。
刑事になるのは夢だったが、こうして街の人を見守るのも悪くない。この人たちの笑顔を守るのも、大事な仕事だな。
腰に手を当てて、ぐるりと首を回す。息をフーと吐き出して、深呼吸をした。
人並みの向こうから、元気な声が聞こえてきた。
「小峰さーん、おはー!」
近くの高校に通う七香ちゃんだ。今日は、友達と一緒に歩いている。この子は、先日の被害者の子だな。良かった。元気になったんだ。こんな子の笑顔を守れたことは、自分の誇りだな。
「七香ちゃん、おはよう。今日も元気だね!」
「そっだよー、元気! 小峰さんも頑張ってー、まったねー」
七香ちゃんの元気な声と、控えめな黒髪の子がぺこりとお辞儀をして通り過ぎていった。
「気をつけてなー、信号守れよー」
二人の背中に声を掛ける。確か七香ちゃんは三年生と言っていたから、もう卒業か。それまでは、異動せずにここで、あの子達を見守るのも悪くない。こんなにも無垢な子達が、被害に遭わなくて本当に良かった。
『ネットグルーミング』。
その悍ましい言葉に、小峰は例えようもない悍ましさが込み上げてきた。今の犯罪は、その経路が見えないだけに、日常の些細な変化に気づくことが重要だ。そのためにも、街の風景を目に焼き付けておかないとな。
七香ちゃん、そしてその友達の黒髪の子。あの二人の笑顔が自分にはかけがえのない報酬だ。
今日の日報を開き、夜勤からの引き継ぎ事項を確認していた。酔っ払いの世話、落とし物など、あまり変わり映えのしないものにまじって、未成年者への暴行と脅迫という項目が含まれていた。今後は本店でも、SNSの監視を強化するらしい。
それにしても彼女の飛び蹴り、いやローリングソバットは強烈だった。男に掴まれている女の子の頭スレスレを抜けて、男の顎に正確にヒットさせていた。その後、片手で被疑者の髪の毛を掴んで、まるで散歩でもしているような足どりで交番まで引きずっていた。その後の報告では、顎の骨が砕けていたらしい。しばらくはまともに食事も取れないだろうというのは、先輩の話だった。あんな正確無比な蹴りを出せるのは、署内でもいないだろうな。それを話した先輩は、自分の話を聞いて『あの……』と羨望の眼差しで自分を見てきたが………。
まるで、女版「ラオウ」だ。
さて………。
小峰は、パトロールに出る準備を始めた。今日も、何事も起きませんように。
ラオウに会いませんように。
<ネットグルーミング 完>




