8ー6 正体
学校の近くの駅は、夜8時半をすぎるとだいぶ人通りが落ち着いてくる。通勤ラッシュの時間も終わり、電車が止まれば人の流れがあるが、それ以外はまばらだ。こんな時間に、学校の制服を着ている人なんて、他にいない。明らかに浮いている。
ソシャゲのチャットメッセージを見て、制服のまま家を飛び出していた。七香のことなんか、どうでもいいけど……どうでもいいけど……。
駅の西口のコインロッカーの前。それが七香と『りんごちゃん』の待ち合わせ場所だった。駅前なのに、駅の動線から外れているのか、ここだけ人通りが異様に少ない。コインロッカーに用事のある人だけが来るような場所だった。ちょうど駅前の人通りからの見通しも悪く、監視カメラの死角になっている。ロータリーの端で車を横づけされたら、背後は壁で逃げることは難しい。
パパが言っていた物理セキュリティ上の『リスク』が何重にも揃っている。
本当に普通の女子高生だったらファミレスとかを待ち合わせ場所にするんじゃないかな。自分の特徴を伝えるとかして……。
こんなところを待ち合わせ場所に指定するなんて。確かに『りんごちゃん』が言うように、他に人がいないから顔がわからない相手と落ち合うには、うってつけの場所かもだけど……でも。
心臓の鼓動が早くなる。こんなところで、七香一人で、ネットの人に会うなんて、危険すぎる。不安な気持ちに押しつぶされそうになって、ついポケットに手をやる。すると指の先に硬い何かが当たった。
取り出してみると、グロスのビンだった。さっきゴミ袋に入れようとして、捨てきれなかったのを、ポケットに入れたままになっていた。
――七香。お願い、ここには来ないで! ここはダメな場所だよ!
もう一度、チャット画面を見てみる。そこにはりんごちゃんからのメッセージが可愛いスタンプと共に表示されていた。
『りんごちゃん:時間通りにつくよー、会えるのめっちゃ楽しみ!』
そんなに寒くないはずなのに、背筋にゾクっとした感覚が走った。なんでもないメッセージが、逆に不気味さをましているようだった。
なんとしても七香がリアルで会う前に、『りんごちゃん』の正体を確認しなければ。
ロータリーにある時計をみると、約束の九時まであと十分くらい。
すると、駅のロータリーの向こうからズンズンと響くようなオーディオの音が聞こえてきた。その音と共に駅前のロータリーに黒く四角い車が入ってきて、コインロッカーの前に止まった。車のドアが開いて、中から一人の女性が出てきた。高校生という感じではない。大学生か、それよりも上の年齢に見える、少しケバくて危険な雰囲気をまとった人物だった。
彼女は、まっすぐに私のところに向かってきた。
「ナナハチマンツムちゃん?」
――え? この人?
「へー、本当に女子高生? 制服まで着ちゃって……」
その女の人は、嫌な感じの笑いを口元に出していた。そう、見下すような卑下した笑い顔だった。
<つづく>




