8ー2 不協和音
「紬ー、おはー」
七香がギリギリの時間に教室に駆け込んでくる。走ってきたのか、若干息が乱れていた。最近七香は、遅刻ギリギリに来ることが多い。
「七香、また遅刻ギリギリ」
「へへー、最近寝るの遅くてさー」
「へー、受験勉強?」
「の、合間にソシャゲしててね」
七香が出してきたスマホには、Youtubeなどの広告でよく見かける、ゾンビが出てくるソシャゲの画面が表示されていた。結構人気があるらしく、毎回「◯◯万ダウンロード突破!」とかキャッチコピーが更新されている。クラスの中で話題になっているのを耳にするから、学校内でもプレイしている人がいるみたいだ。
「七香、受験生なのに……。こんなのやってていいの?」
――ゲームなんかやっているぐらいなら、早く寝た方がいいのに。
「まあまあ、息抜きだから」
「まったく……」
呆れ顔で呟くと、七香が隣に座って話を続けてきた。
「遊び目的だけじゃないんだよ? 受験の情報交換とかさ……」
見せてきた画面は、プレイヤー同士のチャット画面だった。
「……七香、これって『この映画が良かった』とか『このリップがおすすめ』とかじゃん。受験の話ってどこ? それにこのプレイヤーが同じ受験生とは限らないでしょ?」
「……そうだけどさ。でも受験生もいるんだよ?」
「そんなことがわかるの?」
「みんなハンドルネームだし公開はしてないけど、口ぶりとかから、同じ高校生の女の子っぽいんだよね」
ちょっとした不穏さが頭をよぎった。ゲームの中だったら、いくらでも詐称できるよね? 確かめようがないんじゃないかな。
「ねえ、七香? それって本当なの? 同じ受験生って?」
「確認はしてないけど、模試の日程とか知っているから、そうかなって思って」
――それって、前にパパが言っていたテクニックじゃないかな?
「ねえ、七香はどんなハンドルネーム使っているの?」
「ナナハチマンツム」
「え? それって」
「いけてるでしょー、前に使った呪文」
七香のスマホの画面上にチラッと見えた『オフ会』『会う』というワードが、頭の中に楔みたいに残っていた。
――これって、結構危険じゃないのかな?
教室の扉がガララっと開いて先生が入ってきたのを合図に、七香を始めクラスのみんなはそれぞれ自分の席に戻っていった。そしてその日は、それ以降七香と話す機会もなく、帰りも『用事があるから』ってさっさと帰って行ってしまった。
この時、無理矢理でも七香を引き留めなかったことを後悔する羽目になるとも思わずに。
<つづく>




