番外編7ー2 たくさんの目の先
「仮にその防犯カメラの映像データがテレビニュースで使われるとしてもね、それは七香が将来、何か凶悪な事件を起こして指名手配犯になった場合だと思うよ?」
「……それでも全然! もしその時の防犯カメラの映りが最高にイケてたらさ、ニュースを見た世間の人たちが『えっ、あんなに可愛い子がまさか……!?』ってショックを受けるでしょ? これだって巡り巡って、将来の紬のためなんだからね!」
――へ? なんでそこで、急に私なの?
「なんで? 何の関係があるのよ?」
「だってさ、私が捕まった後に紬が駅前で『七香ちゃんの釈放を求める署名運動』とかを起こしてくれた時、顔写真が良い方が圧倒的に署名のログが集まりやすくなるでしょ?」
「なんであんたが当然のように逮捕される前提で話が進んでるのよ……。っていうか、なんで私が平日の駅前でそんな恥ずかしい署名運動をやってることになってるのよ!?」
「ええーっ!? もしかして紬ちゃん、親友のピンチなのに署名運動してくれないの?」
「……絶対にしない。……まぁ、百歩譲って拘置所への差し入れくらいは考えてあげるわよ」
そんな不毛極まりない会話を交わしながら、私たちは駅へと続く賑やかな大通りを歩いていた。それにしても、七香が街頭のカメラのレンズを見つけるたびにコンパスみたいにピタッと立ち止まってモデルポーズを決めるものだから、移動の時間がかかって仕方がなかった。
歩きながら見渡してみると、ここ数年で街中の防犯カメラは本当に増えたよね。銀行や商業ビルの入り口だけじゃなく、普通の民家の玄関先やインターホンの横にも、鈍い光を放つレンズが当然のようにこちらを向いている。
「七香ちゃん、今学校帰りかい?」
「あー! 小峰さん、お疲れ様でーす!」
七香が駅前の交番の真ん前で、これ見よがしに片足を上げて難解なグラビアポーズを決めていたその瞬間、交番の戸が開いて、おまわりさんが笑顔で声をかけてきた。
――ちょっと待って七香、あんた、いつの間におまわりさんにまでコネクション作っているのよ……。まさか本当に、将来捕まるための伏線じゃないよね? おまわりさん、この人です!
「……ところで七香ちゃん、さっきからそこで一体何をしているんだい?」
「どお? 小峰さん、この角度からの最新ポーズ! 今日の私、結構イケてる?」
「……あ、えっと……うん? イケてる? うん、とってもイケてる……よ……?」
――七香、おまわりさん困惑してるじゃん。やめなよ……。
「将来のニュース映像のために、少しでも可愛く映っておかなきゃって思って!」
「え? 映る? ニュース?」
小峰さんは制帽のツバをいじりながら、不審者が潜んでいないかと本気で交番の周囲の街頭をキョロキョロと見渡し始めてしまった。
――分かります、その気持ち。七香、おまわりさんが困惑しているから! これ以上、街の平和な日常を乱すのはやめなさいってば……!
「じゃあねー、小峰さん! また明日ねー!」
「あ……ああ……。うん、帰り道、車に気をつけて帰るんだよ……」
私は隣で顔から火が出そうな羞恥心に耐えながら、小峰さんに対して「うちの親友がバカで本当にすみません」と無言の謝罪を込めてペコリと深く頭を下げ、足早に交番の前を通り過ぎた。
――もう、隣にいて死ぬほど恥ずかしいんですけどーー!!
――明日から別の道に変更しようかな。……うん、そうしよう。
<つづく>




