番外編7ー1 レンズの先
「……七香? あんた一体、何してるのよ?」
学校帰りの通学路。七香が突然、オフィスビルの前でモデル雑誌の表紙か何かと見紛うような完璧な決めポーズで静止したかと思えば、次の瞬間にはまた歩き出し、三歩進んでまた「カシャッ」と音が聞こえそうなポーズをとる。
この異様な挙動を延々と繰り返しているせいで、帰宅時間がどんどん後ろ倒しになっていく。
――また何か、ろくでもないイタズラを思いついたに違いないわ。
「七香……?」
「んん? なあに、紬ちゃん?」
七香はギャルピースを顔の横でキメたまま、首だけをこちらへ向けて、目だけでジロリと私を見つめた。
「何してるのよ、さっきから……、完全に挙動不審なんだけど」
オフィスビルのエントランス前、人通りの多いこの場所で、一体何をそんなに誇らしげにポーズを決めているのか。私が呆れてその指先を辿った先には……何もなかった。ただの街灯と、壁があるだけだ。
「なに? そこに何があるっていうのよ」
私も横に並んで、七香の指差すその先を凝視してみたけれど――。
「えー、紬ちゃんには見えないの~? ほら、あそこの天井の隅っこに、防犯カメラがこっちを向いてるじゃん!」
指差された先をよく見ると、確かに白い壁の隅に、鈍く光る防犯カメラのレンズがこちらを向いていた。
「え? だから……?」
「だからー! このキラキラJKの七香様が今まさに通ってるんだよ? いつ誰に映されて、いつ全世界に配信されるか分からないんだから、今のうちに少しでもビジュを整えておかないとさー。誰に見られているか分からないじゃん、人生何が起きるか!」
――あきれた! そんなことまで意識して毎日歩いてたわけ……!?
「七香、あれはただの防犯カメラよ。普段は誰も見ることはないの。何かしら事件が起きて、警察が映像を確認しに来るっていうイベントが発生しない限りはね」
「紬! それ! そうなのよ! こないだもさ、テレビで見た時、事件解決のために近くの防犯カメラやドライブレコーダーの映像が使われることあるじゃない?」
「ああ、最近は多いね。犯罪捜査の証拠として」
「その時にね、七香様の全国のファンを一人もがっかりさせないように、今のうちから完璧なファンサービスをしておくのが、未来の大物スターとしての嗜みなのよ」
「あんた、いつからそんな全国規模のファンを構築してたのよ……」
「え~、そんなの分かんないじゃん! 将来芸能界デビューして、あの大人気女優『渡瀬七香の知られざる学生時代の日常』なんて特番が組まれた時に、防犯カメラの映像が使われたらどうするのよ? その時の映りがブサイクだったら、七香様のファンが失望しちゃうじゃん!」
七香のその果てしない想像力、いや、もはや病的なまでの妄想力に、私はただ脱力してため息をつくしかなかった。
大人気女優って……。この調子で、私の知らぬ間にまた変なフラグを立てていないといいのだけど。
<つづく>




