7−9 再会のパフェ
結局、あのファミレスに怒鳴り込んできた自称「弁護士」の親も、学校側から「生徒の将来と教育上、極めて不適切である」と厳重に注意され、さらに自分の子供からも「お父さん、マジでダサいよ。もうやめて」と冷ややかに一蹴されたことで、店へのクレームを完全に引っ込めたらしい。
その親がニセモノだったのか本物だったのかは最後まで明かされなかったけれど、そんなことはもう、今の私たちにとって本質じゃない。威圧的な大人に対して、一番身内の子供から「ダサい」という強烈な一撃を喰らわせて行動を停止させるやり方は、実は昨夜のパパの助言に基づくものだった。
『真実を暴いて泥沼の裁判にするよりも自発的に閉じさせる方が、遥かにエレガントで高コスパな解決方法だよ』
コーヒーの湯気の向こうで不敵に笑っていた、あのセキュリティの専門家の言葉を思い出し、私は胸の奥で小さく深く頷いた。
「んん~~! これこれ! この甘いメロンの香り! ミントグリーンのシロップと、チェリーレッドのこの鮮やかなコラボレーションが、最高にアオハルを刺激するよね!」
翌週の放課後。五月の爽やかな西日が差し込む、いつものファミリーレストラン。七香と私は、学校帰りにあの懐かしいファミレスの、いつものボックス席に座っていた。テーブルの上には、あの輝かしいミントグリーンのメロンパフェが誇らしげに鎮座している。
――てか七香、こないだの学食コラボカフェのイベントの時、気持ち悪くなるくらい大量の試作パフェを食べてなかったっけ?
喉元を過ぎればなんとやら、とはまさにこのことだ。
うちの学校の全生徒に対する出入り禁止も、生徒二人の停学処分も、あの熱狂的なイベントを経て無事に解除されたのだ。ただし、これからは「もしまた生徒が店内で騒ぐようなマナー違反があれば、店側は遠慮なく即座に学校へ公式通報する」という、条件付きの許可だった。
もちろん、コラボカフェ終了後、全校生徒が体育館に集められ、校長先生からの二時間に及ぶ地獄のように長い説教のログを強制的に聴かされたのは言うまでもないけれど。思い出すだけで足が痺れてきそうだ。
「よかったね、七香。これでこれからは、誰の目を気にする必要もなく、遠慮なく大好きなメロンパフェが食べられるね」
「でしょ? 私さ、難しい法律とかセキュリティなんて全然わかんないけどさ。やっぱり最後は、直接『ごめんなさい』とか『ありがとう』って顔を見て言うのが、一番の解決策なんだよ!」
七香は長いスプーンを可愛く口に咥えたまま、ニカッとリスみたいに無邪気に、眩しい笑顔で笑った。夕暮れの光が彼女の茶髪のボブをオレンジ色に縁取っている。トラブルメーカーだけど、彼女のこの濁りのない純粋さこそが、時に大人の頑なな心を動かす最強の剣になる。
「私のパパも言ってたよ。法律やセキュリティっていうのは、人を守るための『最後の砦』だけど、その門の扉を本当に開けるのは、いつだって冷たい法律じゃなくて『人の心』なんだって」
「さすがパパさん! いいこと言う~、最高!」
呆れ半分で苦笑しながら、私はファミレスの天井の隅をふと見上げた。そこには、小さなドーム型の防犯カメラの黒いレンズが、静かに、無機質にこちらの席を向いて記録し続けていた。
防犯カメラの冷たいレンズ越しには、逆立ちしても伝わらないものがある。それは、画角の外側にある、人と人が対面した時に通い合う、あたたかい「体温」だ。
その伝わらないデジタルデータの隙間を、人と人との信頼のコードで繋ぎ直すことこそが、本当に優れたセキュリティの持つ、少しビターで温かい力なのかもしれない。
ちょっと格好をつけて、私は手元にあった温かいカフェラテのカップを、天井の防犯カメラのレンズに向かって乾杯するようにそっと掲げてみせた。隣の七香も私の奇妙な動作に気づいたようで、嬉しそうに悪戯っぽく微笑むと、自分のメロンソーダのグラスを私のカップに優しく重ねてくる。
――カチン。
澄んだ、心地よいガラスの音が、賑やかなファミレスの喧騒の中に、あたたかく静かに溶けていった。
<第7章レンズの向こう側 完>




