7−3 オアシス
「つ・む・ぎぃぃぃ……。もうおしまいだよ、すべてが終わりました。完全終了のお知らせです……!」
五月の爽やかな朝の光が差し込む、ホームルーム前の賑やかな教室。自分の席で一限目の教科書をカバンから取り出していたら、ドアを開けるなり、絶望に支配されたゾンビのような這い寄る動きで、七香が背後からガバッと私の肩に覆い被さってきた。どすんと背中に伝わる、親友の悲しみの深さに比例した無駄に重い体重。
甘いアプリコットのシャンプーの香りが鼻腔をくすぐるけれど、背中から伝わるオーラは完全に暗黒期そのものだ。
「はいはい、七香、おはよう。朝から一体何事? また学食のイケメン料理人に、実は可愛い彼女がいたとか? 限定プリンが売り切れちゃった?」
「違う! そんな可愛いことじゃないの! もう食べられないのよ! ああ、私たちの放課後の憩いの場であり、砂漠に咲いた都会のオアシスだった、あの駅前のファミレスに二度と行けなくなっちゃったの!」
身悶えしながら、この世の終わりを告げるような声を張り上げる七香の迫力に、私は思わず引いた。心なしか、周りのクラスメートたちも「またやってるよ」という生暖かい視線を向けてきている気がする。
「え? 行けなくなった?……なんでよ? 改装工事でも始まったの?」
「これを見てよ、これ!」
七香が本気で涙目になりながら、短い人差し指でピシッと指差した先、教室の前方の黒板横にある掲示板に、今朝張り出されたばかりの一枚の白黒のプリントが、冷酷にピン留めされていた。
『重要通達:近隣のファミリーレストランにおける当校生徒の著しい迷惑行為により、本日付で全生徒に対する当該店舗への出入り禁止処分を下す』
文字の羅列のはずなのに、そこから放たれる学校側のマジな怒りのオーラが宿っていた。
七香が涙ながらに訴えた内容を整理すると、事態は想像以上に不名誉なものだった。どうやら昨日、うちの学校の生徒二人が、あのファミレスのボックス席でスピーカーホン通話や大声での大騒ぎという特大の迷惑行為を起こし、店側から警察沙汰一歩手前の猛抗議が入ったらしい。
あの穏やかな店長さんは、以前からうちの生徒によるドリンクバーだけで何時間も粘る長時間の居座りやマナー違反に対して、学校側に何度も苦情を入れていた形跡がある。それが今回の一件でついに怒りの限界を超え、『全校生徒の出入り禁止』という最後通告されたのだという。ちなみに、その騒ぎの主犯となった不届き者な生徒二人は、今朝から一週間の停学処分になったとか。
――まぁ、完全に自業自得ってところかな。
「私の放課後の憩いの場が! まだメニューの画面でしか拝んでいない、あの期間限定の特製メロンパフェが! どこの誰かも知らないおバカ二人組のせいで、一生口にすることができないなんて! 神様は不公平すぎるわ!」
「そんな大げさな……。何も地球上のすべての飲食店が消滅したわけじゃないんだから。あの店は全国チェーンなんだから、隣の駅の店舗まで遠征すれば普通に食べられるでしょ?」
私が呆れ半分に正論を返すと、七香は机に突っ伏したまま、まるで裏切られた子犬のように、恨めしそうにジト目で私をじっと睨みつけてきた。
<つづく>




