番外編6ー8 紬、自白する
……翌朝。
最悪の目覚めだ。悪夢を見るよりも、遥かに最悪な現実がそこには待っていた。
――夢じゃなかった。
気まずさのあまり、朝食のパスしてパパと一切顔を合わせないように、急いで家を飛び出してきた。
――大丈夫、1日経てばパパだって忙しいんだから忘れているはず。きっと、私だって忘れられる。
学校に行くと、いつもの見慣れた教室に、いつものクラスメート、そしていつものように机に頬杖をついた七香が待っていた。
「紬、おはー!」
「おはよ……」
「……どしたの? なんか朝から澱んでいるっていうか、元気ないね?」
「……ううん、なんでもないの」
「ふーん、なんか変だねー。あんたと言い、あんたのパパと言いさ」
七香の口から飛び出した、もっとも不穏なキーワード。
「えっ!? パ、パパの……何の話……!?」
「あれ? 聞いてない? 昨日ね、あんたのパパから私のスマホに急にLINEが届いたのよ。『最近の女子高生の間では、鏡に向かってバキュンとやるポーズが流行しているのか?』って」
――ひぃぃぃぃっっ!!
「そ、それで……? 七香は何て返信したの?」
「え? 『いや、そんなの聞いたことないし、全然流行ってないですよ』って返したけど。何それ、バキュンって?」
「さ、さぁ……何だろうね? 世の中には不思議なことがいっぱいあるね……」
「でね、『小学生の間では流行っているんですかねー』って教えてあげた!」
――ひっ、もっと横展開されかけてるじゃないのォォォ!
七香が、いつものディズニーのリスみたいに、好奇心で瞳をきらきらと輝かせて私の顔を覗き込んできた。
――あ、終わった。これは今日一日、学校が終わるまで「落としの七香」による執拗な尋問に苦しめられるタイムラインが確定した。
そして容疑者である私は、夕方のチャイムが鳴るまでには、すべてを涙目で白状させられているに違いない……。あの「落としの七香」の精神攻撃を前に、耐えきれる人間なんて、この学校には一人も存在しないのだから。
――きっと、私の未来の自白は、こうだ……。
『昨日さ、池袋でショーツ買ったじゃない? あの、2500円の高いやつ……』
『うんうん、買ったね』
『家に帰って、試しに穿いてみたのよ……ほら、サイズが合わなかったら嫌だし、せっかく奮発して買ったから、嬉しくて……』
『うん、わかるよ。それで?』
『ちょっと、その、気分がアガっちゃって、鏡の前でポーズとかつけちゃったりして……』『……んんっ、ぶふっ! も、もしかして、なんかセクシーなポーズとかしちゃったわけ!?』
『その……鏡の中の自分に向かって……えっとね……ハートを狙い撃ち、ばきゅーん☆って……』
『……っっっ! お腹痛い!』
『……やってるところに、ノックもなしにパパが入ってきて……』
『……っっっっっっ! ごめん! 死ぬ……!』
脳内のシミュレーターが弾き出した、あまりにも惨めで生々しい未来の映像。
――すみません!すべて私がやりました!私が鏡の前でばきゅーんしました!
――だから誰か、お願いだからあのノンデリオヤジの口を早く『封じ込め』て!
――これ以上『横展開』させないでぇぇぇ!!
<番外編6 紬、買い物に行く 完>




