番外編6ー6 紬、謝る
嬉しそうに再度フィッティングルームのカーテンの奥へと消えた明美ちゃんの後ろ姿を尻目に、七香が腕を組んで、ジロリと私の胸元を盗み見てきた。
「で? あんたは結局どうするのよ?」
「……ブラジャーは今回はいいかなぁって。でも、その、ショ、ショーツだけなら買おうかな、なんて……」
「そう来なくっちゃ! どんなデザインがいい? 攻めのセクシー系? それとも無難なコンサバ系?」
七香がハンガーにかかった色とりどりの布地を次々と持ってきてくれるけれど、どれを見ても自分の肌に合わせるイメージが湧かなくて、まったくピンとこない。
「うーんと、なんかどれも違う気がするんだけど……。ねえ、ちなみに七香は、普段どんなデザインのやつを穿いているの?」
「へ? 私? 私は、まぁ……」
「見せて!」
「ええっ!? ちょっとあんた、ここで!?」
「だって、今すぐ買うための参考にしたいんだから!」
「だって私とあんたじゃ、そもそも趣味が全然違うでしょ?」
「いいから、早く!」
周囲の目を盗み、強引に七香の腕を引っ掴んでフィッティングルームの狭い個室へと連れ込み、パチンと鍵を閉めた。カーテン一枚で遮られた密室の空気。
「さあ、見せて!」
「えええ、マジで言ってるの……?」
「早く! 明美ちゃんが試着を終えて戻ってくるまで時間がないの!」
「うわぁ……なんか今日の紬、キャラ変してない?……」
七香は呆れ果てた顔で両手を上げると、降参とばかりにプリーツスカートの裾を、ふわりと持ち上げた。
――黒い。しかも、なんかすっごく繊細な総レース仕様で、私が脳内で勝手に予想していた「ピンクのリスさんみたいなファンシー系」とは正反対、完璧に大人びたデザインだった。
「……これ、絶対に私のイメージじゃないよね?」
「だ・か・ら! 最初からそう言っているでしょ!」
自分のリテラシーの低さに涙目になりながら、棚の隅で見つけたスカイブルーの控えめなフリルがついたショーツをレジへと持っていった。
お値段、二五百円。お財布から、発行されたばかりのピカピカの新札――北里柴三郎先生の千円札が三枚、パタパタと羽ばたくように消えていき、五百円玉が一枚寂しくお釣りとして返ってきた。
――ああ、北里先生! 日本近代医学の父であるあなたの偉大な新札を、私のパンツごときに使ってしまって、本当にすいません……!
――冷静に考えたら、これだけ予算があれば、イトーヨーカドーでいつものパンツが六枚はセットで買えたはず。……いやいや、違う! これは私の女子力向上のための重大な設備投資なんだから! 十二歳にして大人用にステップアップした明美ちゃんの、さらに一歩先を行くための先行投資なんだからねっ!
<つづく>




