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第181話 ラムの判断、レイラの痛み


 ジュエレーが拠点屋敷に戻ってくるなり、街中でバーミエッタからの刺客を始末したと告げられたラムディエルは、


「そうですか。とうとう本気で追手を派遣してきましたか――」


と、静かに返し、


「皆さんにも警戒が必要かもしれませんね。みんなが戻ってきたら、私からお話しします」


と、続けた。


 ジュエレーは、肩をすくめてみせ、バーミエッタからの刺客などそれ程の脅威とはならないから、放っておけばいいというような意見を主張する。


 今のこのメンバーの実力がかなりの程度強くなっていることは理解している。特に、トール、アドルフィーネ、ジュエレーの実力はパーティを組んだ当初より段違いに上昇している。だが――。


「――レイラ、か……」

と、思案する様子を見せたラムに向かってジュエレーが告げる。


 ラムは、ジュエレーの目を見返すと、ゆっくりと一度瞬きした。


「――はい。レイラさんには申し訳ないのですが、彼女の戦闘力が思ったほど伸びていません。このままでは、彼女と私たちとの間の乖離が拡がっていく一方です」


と、ラムはとうとうそれを口にした。


 そもそもレイラさんは、戦闘を前提として造られたホムンクルスではないのだと、ラムは考えている。

 製作者であるジューダス・ネイ・フィオルテがどのような人物で、何を考えているのかについては、アドルフィーネの話から推察するほかないのだが、少なくとも「レイラさん」はどちらかと言えば、「情報処理」の方に重きを置いた『設計』であるように思うのだ。


「彼女の弓術、短剣の扱い、身のこなし――。速度や柔軟性、反応速度――。どれをとっても、かなり高度な技術レベルです。通常の人間でいえば、少なくとも『白金プラチナ級冒険者』程度は充分にあるでしょう。ですが……」

「私たちの方が、それを軽く凌駕してさらに成長速度が落ちるどころか加速している――。私たちはまだ成長を止めるわけにはいかない――。このままではレイラ自身が危険にさらされる――か」


「――はい」

「どうするつもりだ、ラム」


「――そうですね。レイラさんには申し訳ないのですが、パーティを抜けてもらおうと考えています」



――がしゃあん!!



 ラムとジュエレーが話しているリビングの外で何かが割れる音が聞こえた。


 ラムもジュエレーも反射的にその方に目を向ける。

 そこには悲痛な面持ちのレイラが立ちすくんでいた。

 足元には、トレーとなにかの液体、粉々になった陶器片――。


「わ、わ、わたし――。すいません! すこし外へ出てきます!!」


 そう言うなり、屋敷を飛び出してゆくレイラ――。


「ラム! 聞かれたぞ!?」

と、少し慌て気味のジュエレー。


 ラムは、努めて冷静さを装って、仕方がないという意思を伝えようと首を横に振る。


「くっ、ああ、もう! わかったよ! お前のその人間味の無さの方が私には『ホムンクルス』に見えるぜ? 私が追う。皆が戻ったら話を始めておいてくれ――」


 そう言うなりソファを蹴って駆け出してゆくジュエレーだった。


 ラムは一人リビングに取り残される。


(人間味――ですか。わかっています。それが私の『限界』なのかもしれません――)

 

 ラムの中にある「意識」はスライムの特性『浸食』によって獲得したものだ。

 これが本当に「意識」と呼べるものなのか、ラムにはわからない。

 

 「意識」が芽生えてから永い時を過ごしてきたが、「意識《自分》」がいったい何者なのかという問いは、常に答えの出ない命題のように、ラムの頭の中をずっと巡っている。


 ラムはそっと立ち上がると、レイラが落としていった破片のそばへと歩を進める。


 そこに在ったのは、レイラがいつもいれてくれる紅茶セットとラムとレイラのティーカップだった。

 ラムは、しゃがみ込むとこれらをトレーに上へと乗せてゆく。


 その指先がかすかに震え、視界が少しぼやけるのだが、それが何なのか、ラムにはあまり分からない。


 やがて、一粒の水滴が、ラムの目から零れ落ち、床にこぼれてしまった紅茶に波紋を作った。



******



 レイラは胸を押さえながら、街を走った。

 行く先なんて決めていない――。


 ただ、悲しみに突き動かされて駆け出してしまった。


 胸が苦しくて張り裂けそうだった。


(私、やれていると思っていた……。でも――)


 実際には、『足を引っ張っていた』のだと、知らされた――。


 こんな気持ちは初めてだ。これがどういう感情なのか、レイラはおそらく理解できていない。

 ただ、胸がキリキリと絞られるように痛み、あの場に居ることが耐えられなくなって駆け出してしまったのだ。


 レイラの足が彼女をどこに運んでいるのか、それすら理解していない。


 数分走ったところでようやく『足』がレイラを運ぶのをやめた。


 そこから見る街の景色は、いつもどおり優しかった。


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