第177話 ジューダスとロドリゴ、会談する
「これはこれは、ロドリゴ会長。まさかいらしてくださるなんて思っても見ませんでしたよ――」
ジューダスは敢えて大仰に構えて見せる。
ロドリゴ会長が自分の執務室を訪れるなど、もうどれほど前の話か記憶にすらない。
「ジューダス……。ゼーファスだ。アイツが私をここへ運んだのだ。だからお前とは話をせねばならない」
ロドリゴ会長はそう言ってジューダスの目を真っ直ぐに、真剣な視線で射抜く。
「『贈り物』、気に入っていただけた、ということでしょうか?」
「アイツの『想い』を受け取った。ジューダスよ、ゼーファスから託されていたのだな?」
ロドリゴ会長の視線は全くズレない。ジューダスの目から今もまだ離さない。
ロドリゴ会長への贈り物――ゼーファス師から託った『銀貨』。
それには、ゼーファス師が自分で編んだオリジナルの魔法が仕込んであると、聞かされていた。
そして、それは、来たるべき時の為にと、ジューダスに託されていたものだった。
『その時には『銀貨』をロドリゴへ渡せ――。まあ、アイツがまだ健在であれば、だが』
それが師の言葉だ。
師がこの世を去る少し前の話だ。
「師の遺言ですからね。ただし、その効果のほどは保証しないとも仰ってましたから――」
出来る限り敵愾心を煽らぬよう、穏やかに言葉を紡いだつもりだが、もちろん、ロドリゴ会長の反応を窺う意図も含んでいる。
「そうか。アイツらしい、な。ならまずは、お前からの『贈り物』にたいする私の『返礼』が先だろう。ジューダス、私の想いは昔から変わらない。ゼーファスと共にある――」
「それは、私に協力する――そういう意味だと受け取ってよろしいのですね?」
ジューダスの視線が今度はロドリゴ会長の視線を逃がさない。が、ロドリゴ会長もまた、これに動じることなくこちらを見返している。
「――そうですか。わかりました」
と、ジューダスは言葉を挟み、
「それでは、お話します――」
と、切り出した。
――――――
ロドリゴは、自分の執務室に戻ると、ジューダスから聞かされた内容を今一度咀嚼しようと思考を巡らせる。
『勇者制度』の解消――。
それが目的だとジューダスは言った。
が、そのことについてはそれほど驚くべきことではない。ジューダスの師はゼーファスなのだから。
ゼーファス・イシュレードの生涯の目的、それは『勇者制度の見直し』に在った。
現在まで続けられてきた『勇者候補戴冠儀式』。これには大きな欠陥がある。
それは、術式施術を受けた『勇者候補』は、急速な成長促進効果を受ける代わりに、老化も促進されるというものだ。
『戴冠儀式』を施術された『勇者候補』はその後約15年ほどで、老衰によって死亡するか、あるいはその前に、この世から「消滅」する――。
このことは、これまで続けられてきた幾度もの試行の記録にある事実だが、その真実は、統一王朝と公理教会の一部のものしか知らない、公理教会の『禁忌項目』となっている。
「死亡」の方は結果が示しているため明らかなのだが、「消滅」の原理は未だ解明されていない。
ある日突然、痕跡を一切残さず、まるで空気中に溶けたかのように「消えてしまう」のだ。
『勇者』は魔王討伐後、公理教会によって『幽閉』される。
その場所は、明らかにされていないが、どうやら、いつも同じ場所というわけではないらしい。
そこで厳重に監視態勢が敷かれ、『勇者』は外部のものとの接触を断たれ、「その時」が来るのをただ待つことになる。
ジューダスは、言った。
『魔属性魔術師が潜んでいます――。教会か王朝の内部に、です』と。
魔属性魔術は聖属性魔術と対を為す上位魔術式と位置付けられている。
が、その存在はあくまでも理論上のものであり、実際にそれを目にしたものはいないとも言われてきたものだ。
『先日、アドルフィーネがそれらしき痕跡と遭遇したと報告がありました。もしそれがそうだとすれば、その魔術師はすでに次の『勇者候補トール・レイズ』の存在に気がついているかもしれません――』
それよりもなによりも、もしその魔属性魔術師が教会か王朝の上位のものであれば、すでにトール・レイズの情報は手にしているだろう。
『次の王朝議会で仕掛けてみるつもりです――。特定できれば、『勇者』制度の全容を暴くことにつながるかもしれません』
ジューダスの計画はすでに動き始めているのだろう。
こうなっては仕方あるまい――。
私も覚悟を決める時が来たようだ。結果がどうなろうとも全力を尽くすほかない。
(ゼーファスめ――。厄介な『希望』を残して逝きよったわ――)
ジューダス・ネイ・フィオルテ。
この世界唯一の聖属性魔術師。
ついにこの男が牙をむく――か。
ロドリゴは、机の引き出しを開くと、二枚の『銀貨』を取り出す。
その一枚からはもう、魔力の残滓は感じられない。
ロドリゴは二枚の銀貨をピタリと合わせ、何も起きないことを確認すると、ふっと苦みを含んだ笑みをうかべた。




