第176話 贈り物
『光溢れる学院』魔術師協会長ロドリゴ・ディ・カレンテの執務室――。
その机の上には一つの包みが乗っている。それからは、かすかな魔法の残滓が感じられた。
ジューダス・ネイ・フィオルテから贈り物だと言って届けられたものだ。
(ジューダスが私に贈り物など……)
ロドリゴは困惑している。
ロドリゴの記憶の限り、ジューダスから贈り物をもらうなど、これが初めてのことだ。
(――おそらくは、アドルフィーネの除籍処分に対してのなんらかのリアクションだろうとは思うが……)
実際に、ジューダスがロドリゴの考えを察しているのかまではわからない。
場合によっては、恨まれる可能性もある。
(まさか、な……)
この包みに何らかの魔法が施されている?
もしそうなら、自分に対して危害を加える目的で?
(――それは、無い。もしそんなことをすれば、この包みを届けたのがジューダスであると知っているものから告発を受け、あやつも罪に問われることになるではないか)
「ふぅ~。仕方がない――。せいぜい足掻いてみるしか無かろう――。」
ロドリゴは腹を括ると、術式を展開し始める――。
「『火属性耐久強化』――。『毒耐性強化』――。『物理耐性強化』――。出来る限りのことはやらねば、な……」
ロドリゴは自分自身に発動可能な防護魔法を重ね掛けしてゆく。
こういった防護魔法はロドリゴの得意としているものであるが、この包みの中身が『聖魔法』であるならば、ロドリゴにはお手上げだ。
「――よし。開けるぞ……」
ロドリゴはまず包み紙を開いていく。
包み紙の中身は、箱だった。両手のひらサイズの小箱。何の変哲もないただの紙箱だ。
ロドリゴはおそるおそるその箱の蓋に手を掛ける。
そして、覚悟を決めると、そろりと箱を開いた。
箱から溢れる魔法の残滓――。
間違いなく何らかの『魔法』が施されている。
「これは――。銀貨――? まさか――、ゼーファス、なのか?」
ロドリゴはあわてて自分の引き出しに手を掛け、そこから、「ゼーファスの銀貨」を取り出す。
そうして手にしている銀貨と、箱の中に納められていた銀貨を見比べる。
「やはり、同じものだ――。ゼーファス、どういうことだ……?」
この銀貨――。
この世界で流通しているものではない。
ゼーファスが造ったオリジナルのもので、ゼーファスがロドリゴの会長就任時に記念に贈ってくれたものだった。
「二つ作って、一つを私に――? そして、今その二つがここにある?」
そうして、その箱の中に納められている銀貨から感じる魔法の残滓――。
ロドリゴは誘われるようにその銀貨に手を伸ばし、箱から取り出した。
今、ロドリゴの両手に一枚ずつの銀貨が摘まみ上げられている。
(ん? この銀貨、裏の意匠が、違う? いや、違わない。文様は一致している――だが)
「凹凸が逆――」
それが示すもの――。
ロドリゴは躊躇わず、その銀貨同士を重ね合わせる――。そして、位置を調整すると、二枚の銀貨が寸分違いなくぴったりと重なり合った。
「やはり、パズルか――。ぬ? 魔法……だと? ゼーファス、一体何を――」
銀貨から魔力が溢れ出す――。そして、それがロドリゴを包むようにこの部屋に充満してゆく――。
「くっ! やはり何か仕掛けられて――」
『ロドリゴよ……』
「――!? ゼーファス、か!」
『ロドリゴよ……、時が近い。
私の弟子ジューダスが行動を起こすだろう。
『勇者』制度を止めるのだ。あれは、人類の誤りだ。
あれは、『魔属性魔術式』だ。
このままでは人類はいつか魔法に飲み込まれる――。
ロドリゴ……、ジューダスは『希望』だ。
頼んだぞ、ロドリゴ』
「ゼーファス! お前――、私に何が――、答えろ! ゼーファス!」
しかし、それ以上に何も声は聞こえなくなった。そうして部屋に充満していた魔力もいつしかすべて霧散してしまっていた。
(ゼーファス、お前は本当に天才だったんだな――。死してなお、想いを伝えるなど聞いたことがないぞ――)
しかし、今の声、聞き違えるはずはない。あれは、ゼーファス・イシュレードの声だ。
数年ぶりに聞いた親友の声だが、ロドリゴには分かる。
ロドリゴは、二つの銀貨を懐にしまい込む。そして、席を立った。
(話さねばなるまい――。ゼーファスの『希望』と、な……)
そう決意すると、ロドリゴは部屋を出てジューダスの執務室へと向かった。




