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第175話 水運、復活!!


「うほぉ! このマグロ、とろけるぅ~。それにこのハマチ、鮮度が良くてプリプリだぁ!」


 ジュエレーが5人の囲むテーブルの真ん中に陣取っている大きな『船』のような器から、刺身のネタを掴み、口の中へとポンポンと放り込む。


「なあトール! 明日の晩も、これにしような!」


 青狼暦648年秋――。

 城塞都市カアレ。


 先程、『無限の迷宮』探索、および、ダンジョンボス『リザードマン・ロード』の討伐完了の報告をしたトールたち一行は、その報酬を手に、この、高級料亭へと足を運んだというわけだ。


「それは無理だろう? 明日もう一度、『無限の迷宮』へ籠ったところで、『ロード』がそんなにすぐ生まれるとは限らないからな?」

と、トールが返す。


 このカアレに到着して間もない頃、崩れた橋の周辺に出没する『野盗』――アンデッドの群れだったのだが――を討伐したことがあった。


 その後、崩れた橋の撤去作業が続けられていたのだが、このほど、ようやく「水運」が再開され、このカアレにも、新鮮な魚介類が届くようになったのだ。


 その中でも、その「水運」と、「魔法」を利用した、『超低温管理輸送』によって運ばれてくる生の魚介類は、『値打ちもの』という枠に分類され、特に高額な商品となっており、このカアレでも一部の料亭でしか振舞われない。


「いくらすると思ってるんです? そんなに毎日ここで食事をしてたら、あっという間に破産ですよ!? 今の拠点だって、手放すことになって、ジュエレーさんのお部屋も、また馬小屋とかに逆戻りですよ? いいんですか!?」


 そう《《まくし立てた》》のはレイラだ。

 レイラの言うとおり、この料亭の料理はどれも高額で、さすがに、頻繁に訪れることができる場所ではないと、トールも思う。


「それ以上に稼げばいいんだろう?」


と、さらに勢いよく刺身を取り皿の上にすくいあげると、自分の前に置く間もなく、口の中へと放り込むジュエレー。


「そんな簡単な話じゃないんです――! あの迷宮の『ロード』の復活まで3カ月ほどかかるって報告があるんです。それに、『ロード』討伐から一月ほどは、他の魔物も一切現れなくなるらしいですし……」


と、抗弁するレイラ。

 そのレイラは、たぶん、まだ「一切れ」も口に入れてないはずだ。


「レイラ、もういい。こいつに言っても無駄だ――」

と、アドルフィーネ。

「こんなやつは放っておいて、お前も食べろ。そうでないと、こいつが全て平らげてしまうぞ?」


 言いながら自分も、中央の『船』に箸を伸ばす。


 ラムは、そんな皆を尻目に、ちゃっかりと取り皿に自分の分を確保していた。


 トールも箸を伸ばし、刺身を「数切れ」取り皿に取り、それを専用のタレ――『醤油』というものに浸した後、口に放り込んだ。


(――――!! なんだ? あまい――!?)


 トールも森を住処にしていたため、川や湖沼の魚はよく口にした方だったが、これほどに「甘い」魚の切り身は食べたことがない。


「これは……、本当に魚なのか――?」


 トールが思わず零す。


「ほほ~ん、トール、さては海の魚は初めてだったか? どうだ? うまいだろう? な、だから明日も――」


 ジュエレーのこちらを見透かすような視線がトールを突き刺す。


「――いや、正直驚いた。これほどの鮮度とは――。いくら『海』から直送と言っても、かなりの距離があるだろうに……」


と、トール。


「『超低温輸送』処理ですからね。ほとんど、漁獲した直後の状態を維持されてここまで来ているんですよ。だから、相当『高額』なのです――」

と、レイラ。


「どういうことだ? その『超低温……』てのは?」

「海でも岸からかなり離れた場所でこの魚たちは漁獲されます。その直後から、魔術師が魔法によって温度管理を徹底し、そのまま数人が引き継ぎながらここまで運んでくるんですよ」


 なんと、それ程の手間と人員を掛けているのなら、『高額』なのも理解できる。


「つまり、だ。『水運』が復活したから商品として提供できる価格に落ち着き、料亭のメニューが復活したということだ」

と、アドルフィーネが補足する。


 陸で運ぶとなるとさらに魔術師の人員を増やさなければならなくなり、そうなるともう、値が釣り上がりすぎて商品化できないということなのだろう。


 ジュエレーがさらに一切れ口に放り込みながら、


「それに、陸は盗賊からも狙われやすいからな。それだけの経費を掛けて運んでいる途中に奪われたり襲われたりすれば、それだけでもう大損害になるというわけさ」


と、言った。 


 トールが「木こり」の時は、自分一人で伐採、製材、運送までやっていたため、それほど経費という考えは気にしていなかった。


(自分一人で完結していた俺の「木こり」の仕事とはちがう……)


 トールはさらに一切れ口に運ぶと、商売というものの奥深さを、噛みしめるのだった。


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