第172話 ラムの無茶な注文
私から皆さんに一つ注文があります――と、ラムが言った。
『『混沌のヴォイド』をはじめとする『四禍の芽』には一つの共通の特徴があります。それは、異常な耐久力です――。これら『四禍の芽』を打ち倒すには、技術はもちろんですが、こちらの戦闘継続力も問われます。つまり、持久力です。今回のロード討伐はこれの確認でもあります。『四禍の芽』との戦闘は、「削り切る戦い」です。それをこの場で予行演習します――』
と、ラムが説明を加えた。
その為の「注文」だという。その「注文」とは――。
「おい! ラム! お前、正気か! くっ! おい! まだか!? ジュエレー! いい加減にもう時間だろう!?」
そう吐き捨てるように叫びつつ、アドルフィーネが剣を翻し、身を翻し、二刀を両手に提げた巨大なリザードマンと戦っている。
「まだあと、30秒あるぜ? アドルフィーネ、やられるなよ?」
と、ジュエレーがニヤニヤしながら煽る。
「くっ、おわっ! あぶない! こいつ、なかなか強いぞ!?」
アドルフィーネはそう悪態をつきつつも、リザードマン・ロードの攻撃を掻い潜りつつ斬りつけていく。
いや、『殴りつけていく』が正しいか。
「――剣の刃を使うなって、結構きついぞ? ジュエレー、次はお前の番だったな? せいぜい笑ってやるから覚悟しておけ!」
それでもさすがに《《元》》『白金級冒険者』だ。
アドルフィーネは王朝に身を置いていたため、冒険者登録は一度解除されており、再復帰後現在はトールたちと同じ『黄金級』まで昇格している。
「けけけ、言ってろ! よし、交代だ! アドルフィーネ、さっさと下がれ!」
「ふん! せいぜい、大ケガせんようになぁ!」
「言ってろ――」
そんな軽口を交わした後、アドルフィーネが剣を退く。
替わってジュエレーが両手に剣を抜き放ち躍り出た。
出るなり、ジュエレーの閃光のような剣戟が閃く。が、もちろん、剣の刃は立てるなというラムからの言いつけを守っている。
ジュエレーは巧みに剣を捌きつつ、リザードマン・ロードに『打撃』を加えていく。
「けっ、大したこと――うおっ! なんだこいつ!? おわぁ! きゅ、急に動きが、速くなった――?」
最初の内こそ、ジュエレーの速度について行けてないような感じを受けたが、時間とともにロードの動きがジュエレーの動きに追い付いてくる。
「――やべぇぞ、こいつ! なんだこの速さ――うわぁあ!」
ジュエレーが珍しく速度で翻弄されかかっている。
「かかか! ほら見ろ、言わんことじゃない! やってみればわかるってやつだ! まだ、60秒は残ってるぞ? ほれ、降参するか!?」
アドルフィーネが今度はニヤニヤしながら煽り返す番だ。
しかし、この二人、本気で心配してるのか、楽しんでいるのか、トールにはよく分からない。
いつでもこんな感じで、言い合いをしてはいるが、どうも本気で憎しみ合ってるようにはどうしても見えない。
「――誰が! おらぁ! これで、どうだぁ!」
ジュエレーがさらに速度を上げる。そうして、ロードに二撃三撃加えたところで、時間が来る――。
「ジュエレーさん! 次は私です! 下がってください!」
レイラが、弓ではなく短剣を構えて躍り出る。
「私だって、これまで皆さんと戦ってきたんですから! まだやれるって、お見せしますよぉ!」
レイラの身のこなし、その柔軟性は、ジュエレー以上だ。
リザードマン・ロードの剣戟をひらりひらりと躱しつつ、超至近距離戦へと持ち込む――。
(すごいぞ、レイラ。二人が舌を巻いていたロードの速度を上回ってるんじゃないか――?)
と、トールの脳裏を駆ける思考。
「ほう! レイラ、やるなぁ! だが――」
と、アドルフィーネ。
「レイラ! それじゃあ、いつまで経っても終わらないだろう!? せめて――」
と、ジュエレーが声を掛ける。
その通りだ。
ただ躱しているだけでは、いつまで経っても勝つことはできない――。
「わ、わかってますよ! はっ! でも――、ほっ! なかなか、隙が――!」
ロードの剣戟は至近距離でも速度は落ちない。なかなかに手首が柔軟なのだろうか。レイラに当たらないまでも、レイラが攻撃を繰り出す隙を与えない――。
「くっ、こいつ、強い――。けど――! どうだぁ!」
何とか隙を見つけたレイラが渾身の一撃を放つ――。剣の刃は使えないため、柄頭をリザードマン・ロードの眉間に打ち下ろそうと試みる。
ギィン――!
「くぅ!? これを受けるなんて――! 信じられない!」
その後、レイラもなんとか突破口を探るが、結局、その機会は訪れなかった。
「レイラ、時間だ! 下がれ! トール、交代だ!」
アドルフィーネが叫んだ。
「よおし、必ず叩き伏せて見せる――!」
トールは右腕のロングソード型『ラムの剣』を握る手に力を込める。
「くぅ! すいません、トールさん! あとは宜しくです!」
レイラがその言葉を合図に後方に飛び退り、ロードとの距離を取った。
一瞬の静寂――。
トールが剣を構えてロードの前に躍り出る。
その背からはゆらゆらと闘気が立ち昇るかのようだ――。
ロードがゆるりと二振りの剣を構える。ここまで3人と対峙しておきながら、打撃も幾らか喰らっているだろうが、その様子から明確なダメージは見て取れない。
「行くぞ――ロード! 俺が最後だ! やぁああ!」
トールが地面を蹴って、ロードに一気に襲い掛かった。




