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第171話 予行演習――『無限の迷宮』


 青狼暦648年も秋が深まり、かなり肌寒くなってきている。

 トールたちがカアレに拠点を移してから一月ほどが経過した。


 トールたちの目的は『混沌の迷宮』に潜む『四禍の芽――混沌のヴォイド』の討伐であるが、そいつは地竜アースドラゴンだという。

 まあいわば、巨大なトカゲだ。――ただし、無詠唱で魔法を放つバケモノらしいが。


「私から見れば、『赤子』のようなものですが、私が一息に倒してしまっても何も意味はありませんからね。皆さんにはそれなりに準備をしてもらわないと――」


とは、ラムの言葉だ。


 ラムが言うのだから、トールは疑いはしない。ジュエレーもそうかもしれない。

 だが、あとの二人はどうだろうか――。


「ラム。おまえなら本当に一撃でほふることができるのか?」

と、アドルフィーネが眉を寄せる。

「ラムさん、もしそれが本当なら、ラムさんは英雄級ですよ?」

と、レイラさんも訝しがる。


「ええ、もちろんです。ですが、私の場合、そのあとが問題でして――。その為にも、皆さんにはもっと強くなってもらわないとです。特にトールさんには、まだまだ伸びしろがありますからね。こんなところで頭打ちされたら、私の計画が全て白紙になってしまいます」


 そう言ってこちらを見つめるラムの視線が少し痛い。


「わかってる。俺もこんなところで終わる気なんて更々ないからな。まだまだ強くなってやるさ」

と、トールも表情に余裕を湛えて応じた。


「次! くるぞ――!」

ジュエレーが叫ぶ。


 トールたちの眼前に迫るのは、リザードマン数体だ。


「うおおぉお!」


と、気合を上げて飛び込むトール。その両手に握るのはいつもの大剣型『ラムの剣』だ。

 薄青い閃光を閃かせて大剣が唸ると、3体ほどのリザードマンが上下に分断される。手ごたえが軽い――。


「そら――!」

と、追うように声を上げたのはジュエレー。ジュエレーが稲妻のようにリザードマンの間をすり抜けたあと、2体ほどが崩れ落ちた。


「ふ、ふん!」

と、鼻を鳴らしながら右手をかざすアドルフィーネ。その手のひらの先から二発の氷の槍が連続で発射されると、それらはリザードマンの胸板を貫き風穴を開ける。


「えい、やぁ!」

と、ラムの隣で掛け声を掛けながら、弓矢を二発放ったのはレイラ。その二発ともが寸分たがわず、2体のリザードマンの眉間に突き刺さると、それらは音もなく倒れ伏した――。


「はい、皆さん、よく出来ました。次、すぐ来ますよ。すぐに態勢を整えてくださいね――」

と、間髪入れずに指示を落とすラム。


 最近はこのような戦闘が多くなっている。

 ラムやアドルフィーネ、レイラの話によれば、『混沌のヴォイド』自体は単独でボス部屋に潜んでいるのだが、耐久力がとてつもなく高いらしい。


 それゆえに、連携と攻撃の継続が重要になるとのことで、レイラがギルドで情報を得てきた、再湧出リポップまでの待機時間が短いという特徴を持つ『無限の迷宮』を今の狩場に選択している。

 

 トールたちが初めてここに訪れてから、そろそろ2週間ほどが過ぎており、手順や連携などもかなり向上してきた。


「――息を整えろ。次、行くぞ!」


 トールの声がこだまする。


 応、と各人からの返事が返ってくる。


 そんなことを繰り返しながら、()()()()前進する――。


 もちろん体力的には少しばかりキツイが、その負荷が日に日にトールの実力を押し上げて行っているという感覚がはっきりと実感できている。



 そしてようやくここまで辿り着いた――。

 トールたちが最後のリザードマンの群れを始末した時、目前に鉄製の大扉が姿を現す。


「見えました! ボス部屋の扉です――!」

と、レイラ。

「ああ。ようやく、だな」

と、トールも応じる。


「この『無限の迷宮』の現在のロードは、大型のリザードマンという情報です。『混沌のヴォイド』の予行演習にはちょうどいいと思われます――」

と、レイラがボスの寸評を述べる。


「――では、私から皆さんに一つ注文があります」

と、ラムがそのあとに続ける。

 その口元からは含みのある笑みが漏れていた。


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