表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/182

第168話 ロドリゴ、アドルフィーネの処分を決す


「ロドリゴ会長。サンザーレ近郊の森で、王朝の衛兵が二人、殺されました。死因は斬殺だということです――」


 『光溢れる学院(レイシュタル)』のロドリゴの執務室に、魔術師の一人が報告に来た。


「うむ。――他殺か。冒険者の仕業ではあるまい。ならず者か、それとも――」

「決まっています。幻族の仕業に違いありません」


「そう――だな。報告ご苦労、下がってよいぞ?」

「はっ! 失礼いたしました! 業務に戻ります!」


 報告に来た魔術師はそう告げると、執務室を辞して行った。


 幻族――。

 魔素に原資を持つとされる種族であり、はじめは人族とおなじものと思われていたのだが、大昔、ある時を境に確実に区別されるようになった。

 総じて、温和で友好的なものが多く、人族と共に、あるいは紛れて市中で生活しているものも多い。


 が、反面、魔族と総称されるように魔物を支配し人族を目の敵にして、殺したり、犯したり、略奪したりするものも一定数以上いるのも事実だ。


 とくに、『魔将』の配下など一部のものは、人族と遭遇するだけで襲う傾向が強い。


 しかしながら、人族の中にも蛮行に及ぶものはやはり一定数は存在している。

 どうして犯罪に手を染める者が居なくならないのか。



 ロドリゴはこれについて一度深く考えたことがあった。

 もしかすれば、『魔素』がなんらかの影響を与えているのではと。


 そうであれば、『魔素』を原資とする幻族のほうが犯罪者の率が高いはずである。が、この調査は意外な結果を表した。


 人族の犯罪者率の方が圧倒的に高いのである。


(むしろ、『魔素』が犯罪者率を抑制している、ともいえる、か)


 この結果を公理教会へと持ち込んで、今後の「方針転換」の必要性を訴えた方がいいかとも考えたが、おそらく良策とは言えないだろう。


 公理教会はその誕生から一貫して、『魔族排除』を謳っている組織である。これは「教義」であり、「真理」なのだ。


(やはり、これは危険すぎる資料だ。処分しておかなければ――)


 ロドリゴはそう決定を下すと、「その結果に関する資料」をすべて、灰に変えてしまった。



 それから数十年が経過し、自分が魔術師協会会長へと就任してからも、その事実はロドリゴの心の中に保管されており、一切口外しなかった。


 いや、一度だけ、友人と話したことがあった――。


『ロドリゴ。このことは私は聞かなかったことにする。君ももう忘れろ――』


 そう、ゼーファス・イシュレードは言った。


(何が忘れろ、だ。自分の方が固執していたではないか――)


 その話を聞いたゼーファスは、その後も何かを調べていたようだが、結局なにも行動を起こすことはできなかった。


 はじめ、全ては弟子のジューダスに託したのかもしれんと思っていたのだが、ジューダスの行動を見ている限り、そのような様子は見られない。


 ゼーファスも結局は「忘れた」のだろうと、ロドリゴはそう自分に言い聞かせている。


(悪いことをするのはいつも幻族、か――)


 先程の魔術師の言葉、それが「真理」だ。

 公理教会の「教義」はいつも正しいのだ。


(しかし、アドルフィーネめ。結局そのまま出奔する気のようじゃな……。まあ、そもそもそういう気性の子であったから、ここまでよくぞ堪えていたというところでもあろう――)


 このまま「出奔」という形のまま放っておけば、公理教会から何らかの咎が課せられる恐れがある。


(まったく、人の気も知らんで、困ったものだ――)


 ロドリゴは遂にペンを取った。

 これまで、ふらりとまた帰ってくるかもと思い、その決定を下すのを先延ばしにしていたが、これ以上は、むしろ危険だろう。


 ロドリゴは一枚の用紙の上をすらすらとペンを滑らせてゆく。

 そうしてやがてペンを止めると、呼び鈴を鳴らした。


 カチャリと音がして執務室の扉が開く。


 「お呼びでしょうか――?」と、警備の魔術師が声を掛けてくる。


「ああ、この書類を公理教会へ届けてくれ――」


 そう言いながら、一枚の書類をその魔術師の方へ差し出す。


「これは――、アドルフィーネさまを――? よろしいのですか? 会長」


「致し方あるまい。このまま放っておくわけにもいかぬだろう」


「わかりました。それでは――」


 そんな短い会話を交わした後、その魔術師は執務室を出て行った。

 『アドルフィーネ・マインツァの除籍報告書』を手にして。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ