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第167話 ラムの計画とその真意


 そもそも『勇者候補戴冠儀式』というものがどういうものかについて、トールはまだほとんど聞かされていない。

 もちろん、それに伴う『副作用』の話もだ。


「なあ、ラム。そろそろ『勇者』にまつわる全てのことを話してくれてもいいだろう?」


 トールは、このタイミングこそ好機とみて、ラムに問いかける。


「――そうですね。ここまで話したら、ほとんど話すことはもう無いのですが……」


と前置いて、


「私の目的と計画をお話しすることにします」


と、宣言した。


 まずは、『魔王』をラムディエルが戴冠すること、そして、トールが『勇者』になること。

 これが第一の目的である。


 その上で、停戦協定を結ぶ。


 これで、『魔人戦争』は回避できる。そして、『魔人戦争』が起きなければ、『魔王』は在り続け、魔族から「混沌」が消え、「安定」が生まれる。


「魔族世界に安定がもたらされれば、魔族隆盛もある一定のラインで安定するでしょう。ダンジョンの脅威度もおおかた均衡を保つことができ、アウトブレイクは起きなくなると思われます」


 これにより、人族および幻族の『人類』と、『魔物』との間に「棲み分け」が完成する。


 これが最終目標だ。


「これで、世界に共存共栄の基盤が完成します。もちろん、その後すぐにそうなるとは思えませんが、取り敢えずその基盤を作ることから始めないと先は在りません。そして、残った問題ですが、それは、「『勇者』の構造」です――」


 『勇者の構造』――。


 トールはこれまでに耳にしている『勇者』の話を、頭の中で纏めてみる。

 公理教会と統一王朝の評議会が『勇者候補選定』を行い、『勇者候補戴冠儀式』を経て『勇者候補』となったものは、更なる修練を積み『勇者』へと昇格する。

 その後、『勇者』は、勇者軍(王朝軍)を指揮し、魔王軍を討ち滅ぼす。これが、『勇者』の役割だ。


 だが、ラムの話によると、その後『勇者』となったものは急激な老化現象を起こし、最終的には意志疎通も困難になり、死を迎えるという。


「『勇者』は公理教会による『儀式』によって、二つの強力な術式を使用できる権限をあたえられるのですが、『勇者候補戴冠儀式』の際に実はもうひとつ、術式付与を施術されます。これが、急速な老化現象を引き起こす要因となっているのです――」


 そこまで話した時、アドルフィーネが割って入る。さっきより少しだけ座る位置が前寄りになっている。


「ちょっと待ってくれ。つまり公理教会は、『勇者候補』となったものが、死ぬことをわかっていてこれを繰り返してきたというのか?」


 ラムは、少し息を整えると、静かに宣告する。


「そうなりますね。少なくとも私の見てきた過去の事例では『勇者』はことごとく、ほぼ同じ結末を迎えています」


「――なんてことだ……。『前勇者候補エリオット』がああなったのは、『勇者候補になったが故』だということとは――」


 アドルフィーネはそう呟くと、「続けてくれ」と告げて再び身をソファに預ける。


 そもそも、『勇者候補戴冠儀式』自体、何が行われているかを知るものはほとんど存在しない。

 これは、『儀式』が公理教会の『禁忌項目』に守られており、『儀式』に参加できるものはごく上位の教会の重鎮たちだけと、『儀式運営術師』に選ばれたものたちだけで、その『運営術師』たちは莫大な恩賞を手にして教会を離れるからだ。

 その際、『運営術師』は、自分の魔術師能力を剥奪される。が、その代わりとして公理教会を抜け、『光溢れる学院(レイシュタル)』から去ることができる。


「――ですが、おそらくですが、それは見せかけです。『運営術師』のほぼ全員は、すぐに命を失っていることでしょう。公理教会のものの手によって、です」


「口封じ、か。ひでえ話だな。これだから人族ってのは――」

と、ジュエレー。

 だが、思わず口をついて吐き出したようで、トールの方に視線を向けたあと、言葉を止める。


「でも、トールさんが『勇者』になるってことは、『勇者候補戴冠儀式』を受けるわけですよね? そしたら、トールさんはどうなるんですか?」

と、ジュエレーの後に言ったのはレイラさんだ。


「おそらくその心配はないんだ、レイラ。トールに術式は()()()()()()。いや、されるが()()()()()()()というべきか。そうだろう? ラム」


 アドルフィーネは態勢を崩さず、そう問う。

 トールもそれにはもう気がついている。


 『冒険者適格審査』と同じ方法だ――。

 あの時ラムがとった方法は、トール全体をラムが極薄の膜で覆い、術式の効果をトールに影響させないというものだった。


「トールさんに術式付与はさせません。が、付与術式自体は発動させなければいけません。そうしないと、『勇者候補』になれない者だと思われてしまうからです」


 これが、『勇者候補戴冠儀式』の切り抜け方だ。


「『戴冠儀式』で施術される術式が何なのか、それはわかりませんが、私は、成長速度を急速に活性化させるような術式ではないかと考えています。これにより、『勇者候補』は急激な成長を遂げ、『勇者』にふさわしい武力と知力を手にします。そして、『勇者戴冠』で受け取る二つの術式を使用可能になるまで成長した後、『勇者』となるのです」


 ラムの計画において重要なのは、『勇者』と『魔王』が休戦協定を結ぶというものである。

 そのどちらも欠けてはならない。


「さあて、ここまで聞かれてしまった以上、もうあなた方を放逐することはできませんよ? 覚悟はいいですか?」


 この言葉の意味をここにいる全員はすでに理解している。

 が、これに動じたものは一人もいなかった。


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