第21話:真実
少し、体が痛い。近くで私を呼ぶ声が聞こえる気がする……。
どれくらい眠っていたのだろうか、朦朧とした意識がゆっくりと現実に引き戻されていく。
セリスは、ハッとして目を見開いた。隊員たちは!みんな無事なの?!
しかし、周囲は真っ暗だった……。手を伸ばすと、どこかに閉じ込められているようだった。その瞬間、彼女の自分が生き埋めにされたことを実感し、心が恐怖で支配されていくのを感じた。
『セリス、大丈夫?』
その時、リストのホログラムに例の”切り株くん”が姿を現した。
「あなたはこの前の!」
『うん。驚かせてごめんね?体は大丈夫かな』
「えぇ、大丈夫……。でも、ここから出られないの」
切り株くんは笑顔で答えた。
『森の近くにいる仲間がキミを探しはじめている。もう少しの辛抱だよ』
彼はホログラムの中でおどけた様子を見せながら話している。前回と違い、ホログラムの映像は鮮明だった。
「え、あなた外の様子がわかるの?ここはいったい……」
『ここはボクの根の中だよ。キミが地割れに落ちた時、地中に埋まってしまうところを、ボクが手の中に包み込んだんだよ。だから、安心して休んでて?』
この時、セリスはこの切り株は”ユグドラシル”だと確信した。驚きはあったが、セリスは自分でも意外なほど落ち着いていた。
「そう、あなたが助けてくれたのね……。教えて、あなたの正体は、ユグドラシル自身なの?それとも、融合した汎用人工知能が話しているの?」
切り株くんは、セリスをしばらくじっと見つめて答えた。
『AIとも言えるし、そうじゃないとも言えるかな。キミのリストにアクセスしているのは人工知能による知識だけど、ボクはボク自身だよ』
セリスは衝撃のあまり、言葉を失っていた。
ユグドラシル本体が人工知能の技術を掌握したことは間違いなさそうだ。しかし、そんな話は聞いたことがない。ラボのコンピュータからユグドラシルに内蔵された人工知能汎用機にログインでき、ユグドラシルの状態を確認できる。
まさか、ユグドラシルは人類には正体を隠しながら、実は人類のシステムを掌握しつつあるのではないだろうか──
「あなた、私たち人類に一体何を隠しているの……」
『セリス、なんか怖いこと考えてる?何も隠してないよ、ボクは生まれたときからボクのままさ』
「じゃあ、あなたの目的は何?最近この区画で起こっている不思議なことって……」
『……ごめんね。キミたちがこの森を調べに来たことは知っていたんだよ。でもボクは、この地球を救う為に、急いで成長しないといけないんだ』
切り株のキャラクターが消え、目の前いっぱいにラボの様子の映像が映し出される。
「一体何を……」
『セリス、思い出してよ、キミの使命を──』
ユグドラシルが見せるホログラムは、現在のラボのものではなかった。過去に記録された映像を映し出しているようだった。
そこには、幼い頃のセリスの姿があり、その手には切り株のぬいぐるみが握りしめられていた。そして、その姿を見守る若い男女の研究員がいた。
「お父さん、お母さん!」
セリスはホログラムの映像に声を掛けるように叫んだ。直感的に、彼らが両親だと感じ取ったのだった。
そして、場面は切り替わり、薄暗い研究室が映し出された。培養液で満たされたポッドが並ぶフロアだったが、セリスは見たこともない設備だった。そこには、セリスの両親となる研究員がいたが、幼いセリスの姿は無かった。
ポッドの中が映し出されたとき、セリスは目を見開き、驚愕した。
培養液の中に、レンの姿があったのだ。14歳か15歳くらいの細身の少年。現在のレンと外見は全く変わらない。
この中でレンの体に何が起こっているのだろうか。まさか、レンは人造人間なのか……。
たまらず、セリスは叫んだ。
「一体これは何?!私を惑わすために、こんなフェイクを……」
『これは”真実”だよ。彼は、監視する者として生まれた』
「どういうこと?私の両親は、いったい何をしているの!」
『……落ち着いて、思い出してごらん』
ユグドラシルが見せるホログラムは、両親の研究の日々が映し出していた。
”今度は、遺伝子導入試験……”
その映像には、既にレンも研究者として姿を現していた。レンは、研究室に隣接する部屋で、セリスの遊び相手をしていた。
しばらくすると、レンのリストバンドに本部からの呼び出しコールが鳴り、セリスの頭を撫でて部屋を後にした。
”この光景、思い出した。事故の、あの日……”
その時、研究室が突然大爆発を起こした。爆発の衝撃は凄まじく、セリスがいた隣接の部屋にまで有害物質が溢れ出ていた。彼女の両親は、爆発と有毒ガスに巻き込まれ、即死状態となった。
研究所内の管内放送が一斉に流れる。
『研究室フロアで爆発が発生。職員は直ちに避難してください。繰り返します、研究室フロアで爆発が発生──』
幼いセリスの目には、両親が吹き飛び破壊された研究室と、迫りくる炎が映っていた。
ラボ全館の扉はすべて開いていたが、有毒ガスを検知した研究室フロアの開閉扉だけはロックされていた。
スプリンクラーに打たれながら泣きじゃくるセリス。炎から逃げようとするも、ドアはロックされて開かなかった。
体中が激痛に襲われ、次第に強烈な吐き気に襲われる。この時、すでにセリスは重度の細胞損傷を負っていた。
嘔吐した少女はその場に倒れ込み、命尽きるのだった──
”そうだ、私は死んでいたんだ……”
その時、ドアの外でマスターキーが差し込まれ、強制的にロックが解除された。
息を切らしたレンが幼いセリスを抱きかかえ、走り出す。少女の命が尽きていることに気付いたレンは、研究所を全力で駆け抜けた。外には緊急車両のサイレンが近づく音が聞こえる。
しかし、レンは緊急車両に向かってはいなかった。
着いた場所は、例の培養ポッドが並ぶ薄暗い研究室だった……。
レンは急いでセリスの服を脱がし、ポッドの中に優しく寝かせる。ポッドの電源を入れると、制御ルームのコンピュータに向かった。
しばらくして、セリスが入ったポッドが培養液で満たされる。
救助隊が研究所内に入ってきたが、レンは全く意に介さず、薄暗いこの研究室でセリスの蘇生を試みていた。
その研究室は限られた者がアクセスできる隠されたフロアだった。救助隊はもちろん、研究員の誰もこのフロアに立ち入ることはなかった。レンは来る日も来る日も、この隠された部屋から出ることはなかった。
レンは、セリスの身体に再び生命が戻ったことを確認し、一週間ぶりの眠りについた──




