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第20話:森の奥で

──第3区画の外れ、突如不思議な森が現れた。この日、セリスを含む調査隊がこの森に訪れていた。

 研究所が想定している以上の成長を見せる事例は珍しくなかったが、ラボの研究員は異常値を示す植物には丁寧に調査を行っている。

 この森についても、観測ドローンによる調査は既に完了しており、安全性の確認が取れていた。


『この辺りは問題無いようですね。ドローンによる事前調査の結果と相違ありません』

 レオンは、セントリーと呼ばれる調査支援車両のモニターを見ながら周囲の観測結果を報告していた。

 調査チームは、森の中を探索するチームと、森の入り口周囲に展開し探索隊を支援するチームに分かれていた。レオンは、支援隊の指揮を執っていたのである。

 森の内部には、セリスを含む6名の隊員で構成されたチームが向かっていた。


「ここから先は森が深くなっています、気を付けて行きましょう」

「はい!」

 調査隊員たちがセリスに続き、森の奥へ入っていく。


「広いですね……この短期間で成長したとは思えませんね」

 隊員は不気味そうに口を開く。

「広さだけじゃなくて、成長の早さも普通じゃないわ。先日のドローン調査の結果とは随分違うようね」

 6名のリストバンドに搭載されたセンサーが周囲を常にスキャンし、そのデータは調査車両に転送されて処理していた。


 ある者のリストは大気中のわずかな成分変動を感知し、森の息遣いを探っている。

 ある者のリストは地表から土中の水分まで細かく測定し、見えない水脈の流れを読み解く。

 また、音波の反響を捉え目には見えない動きを察知する者や、周囲の生体反応を絶えず読み取る者もいた。

 各隊員のセンサーが捉える情報はリアルタイムで共有され、AI同士が補完し合うことで、調査隊はまるで一つの生命体のように森を監視していた。


『こちらセントリー。セリス主任、森の中の様子はいかがですか?』

 レオンが支援車両から声をかける。

「今のところ問題ないわ。ただ、植物の成長が予想以上ね。警戒して進むわ」

『了解。こちらでも異常成長を確認しています。今のところ周囲は安全です。何かあれば連絡をお願いします』

「ええ、わかったわ。ありがとう」


 その時、隊員の一人が怪訝そうな表情を見せた。

「……セリス主任、これをご覧ください」

 セリスは彼の手元を見ると、地面の土をすくい上げていた。

「ここから先の地面ですが、感触が少し違います」

「確かに、見逃せない兆候ね。もう少し進んでみましょう」

 隊員たちは緊張感を帯びながら、静かに森の深部へと歩みを進めていく。


 よくある成長予測の上振れだとすれば、周囲の観測データを収集して引き上げる頃だった。しかし、今回は何か違う気がした。

 他の隊員たちは特に気にする様子もなく、周囲を観測していた。だが、地中を観測していた隊員だけは、言葉にできない違和感を覚えていた。


 ”ファンファンファン──”

 調査隊のリストバンドから、けたたましい警報音が一斉に鳴り響いた。

 全員のリストバンドのランプが真っ赤に点灯し、ホログラムに”地震発生”のアラートが浮かび上がる。そのすぐ下には、”到達まであと1秒……”という警告メッセージが点滅していた。

「みんな、身を低くして!安全確保!」

 セリスの叫び声が森に響き渡った。

 その直後、体験した事のないような大きな揺れが隊員を襲う。”ゴゴゴゴ……”という轟音と同時に支援車両から通信が入る。

『こちらセントリー!地震発生です、倒木などに気を付け、安全を確保してください!』


 頭を守る姿勢の隊員が、怒鳴るように支援車両に言い返した。

「おいセントリー、何を見てたんだ!地震予測くらい事前に伝えろ」

『──おい、転倒してしまうぞ』

『早くホバリングしろ!』


 支援車両のスタッフの慌てぶりから、予測ができていなかったことがうかがえた。

 レオンは必死に椅子にしがみつき、観測モニターを見ると、真っ赤な警告画面に唖然とした。

『まさか……。セリス主任、急ぎセントリーに帰還してください!』

「揺れが収まり次第戻ります、まずは安全確保を……」

『震源地は、この森です。ちょうど、そちらの真下です!』

「……っ!」

 ”バリバリバリッ”と地面がひび割れ、岩が砕ける衝撃音が体に響く。

「まずいぞ!」

「くそっ、どうする」


 セリスの叫ぶような指示が響く。

「森の外へ退避!急いで……」

 その瞬間、彼らの足元に地割れが襲う。隊員たちは弾かれたように必死に走った。

 リストのAIが彼らの前に最適な逃避ルートを示し、彼らは必死にそのルートに従って走った。

 やがて、森の入り口が見えてきた頃、ようやく揺れが収まった。

「はぁはぁ……」

「全員無事か?」

「あぁ、一歩遅れてたら地割れに飲み込まれてアウトだったな……」

「……おい、セリス主任は?」

『……セリス主任、応答願います。こちらセントリー、セリス主任!』

 レオンは繰り返し応答を求めるが返答は無かった。

 モニター画面に映るセリスのリストは通信不能となり、生体反応も消失していた──


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