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第19話:ロストテクノロジー

「……え。ナタリアなにしてんの?」

「見ればわかるでしょ、銃の試射してるのよ」

 リボルバー式の銃は過去の時代に使われていた旧式の銃である。現在のユグドラシルではほとんど見かけることはない。ナタリアによって復元された失われた技術だった。

『ボスはこのところ、遥か昔の武器や道具の復元に熱心なのです。何のためにこんなテクノロジーの劣る道具を復元するのでしょう。人間とは不思議です』

「ギアは黙っててよ。ミナ久しぶりー、忙しいところごめんねー」

「いいの。私もちょっと気分転換したかったんだよねー」

「気分転換したいなら、これ撃ってみる?」

 ナタリアは慣れた手つきで銃をクルッと回し、持ち手をミナに差し出した。


「いや、こわいから遠慮しとくよ……。ていうか、作業ロボットまた改造したの?」

「予備のリストを分解してさー、AIチップをギアに組み込んでみたんだよ。チューニングは大変だったけど、動きが格段に良くなったんだよ。嫌味を言ってくるのがちょっと困るけど」

 ナタリアは大きな声で笑いながらそういうと、ミナの表情は少し曇った。

「リストの分解って、それはさすがにマズいんじゃない?」

「大丈夫でしょ、分解したのは旧式の予備だよ。私に支給されたリストはコレ」

 ナタリアは左腕に装着された標準仕様のリストを見せながら、右手でギアの胴体をポンポンと叩く。


 リストの予備を、なぜナタリアが持っているのか気になったが、あまり聞く気にはなれなかった。

「……リスト分解して何が楽しいんだか」

「いや、これが面白いんだって!見てよ、このヘルメットだって実はAI組み込んでるんだよ。バイザーにHUDヘッドアップディスプレイ搭載してて、AIを戦闘用にカスタマイズしたら最強の──」

「もういい加減にしなよー、通報されても知らないよ?」

さすがのミナも呆れるしかなかった。


 友との語らいは弾み、あっという間に30分が過ぎた。

 ナタリアは試験場の隅に置かれた冷蔵庫から、キンキンに冷えた瓶を取り出した。”Yggdrasilユグドラシル Sparkスパーク”と刻まれたラベルは、深緑と琥珀色のグラデーションで飾られ、世界樹の葉と幹を抽象化した模様があしらわれていた。この世界の住人たちに愛される定番の炭酸飲料だった。

「ミナも飲む?」

「うん、1本ちょうだい」

 キャップを開けると、シュッと爽快な音がする。お互いの瓶をコツンと当て、一気に口に含んで爽快な炭酸の刺激を味わう。


「で、先日話してた古代文明の遺産ってなんなのよ。まさか、この銃のこと?」

「そんなワケないでしょ。こっちよ……」

 ナタリアは射撃場とは別のフロアに案内する。セキュリティチェックを施された扉を開けると、試験用の部屋があった。この部屋にはナタリアが収集したロストテクノロジーが格納されており、中央の作業台には球体型の装置が置かれていた。

 ナタリアはミナの方に振り向くと、いつになく表情が真剣になった──



「これが、古代のロストテクノロジー。反重力発生装置よ」

「えー、アルバトロスだって浮いてるじゃない。超電導で十分じゃないの?」

「あのね、重力そのものをコントロールするのよ。かつて人類が火星移住を目指して開発した技術よ。宇宙エレベーターにもこの反重力装置が搭載されていて、ケーブルの張力を軽減するだけじゃなくて、エネルギー消費を大幅に抑えていたの」

「そんなもの、どこで……」

「それは企業秘密。それより今、影響範囲と出力を最小に設定してあるから、記念すべき起動試験よ!」

 ナタリアはそういうと台座のスイッチを押し、装置の電源が入る。


 作動すると、球体の内部が淡く光り出した。中央には直径5cmほどのコアがあり、その周囲を直径20cm程度の複数のリングが囲むような構造になっていた。リングの回転や傾斜で、反重力の方向や強度を細かく調整しているようだった。

 次第に、装置の周囲には光の粒子のようなものが舞い始める。そうして、徐々に装置へと引き込まれていく。その力が強まるにつれて、周囲の物体はその引力に耐え切れなくなった。

「ねぇ!これちょっとヤバいんじゃないの?!」

 周囲のあらゆる物が装置に向かって”落下”していく。


「わかってるわよ!はやく緊急停止ボタンを……」

 ナタリアが手を伸ばすが、落下物に阻まれて届かない。

「ギア!緊急停止ボタンを──」

『イエス、マスター』

 ギアの伸縮機能を持ったアームが伸び、緊急停止ボタンを推した。周囲の光が一瞬輝き、装置に向かって落ちていた物体は、逆に外側へ弾き飛ばされた。

 ミナとナタリアの身体もその衝撃に弾かれ、ラボの壁に打ち付けられた。


 ミナは、ナタリアを睨みつけていた。

「うぅ……ごめんって、そんな目で見ないでよ」

「せめて……テストくらいしてから呼んでよね」

 二人はそのまま倒れ込んだ。

「うぅ……ギア、レスキュー呼んで」

『ミナ、マスター、お体は大丈夫ですか?レスキューの要請は既に出し、こちらに向かっております、7分後に到着予定です。お二人ともに大きな外傷はなく、応急処置は不要と判断します。そのまま安静にしてお待ちください。事故原因は、パワーセッティングの不備による自業自得です。まぁ、マスターの技術にはいつも感心していますが、今回は少し甘かったようですね』

「ギア、あんた後で覚えておきなさいよ……」


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