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第18話:ギア

 第2区画中央ステーション──

 ユグドラシルの中央に近いこの地域では、朝の駅は通勤の人々で溢れている。しかし、改札から最も離れた位置にある路線の乗り場だけが、人の流れがほとんどなかった。

 第6区画、隔離試験区へ向かう路線リニアの乗り場だった。第6区画の周囲には厳重な隔離体制が敷かれ、二重のシールド障壁で自然環境と完全に分断されている。

 隔離地域には基本的に研究所の承認がなければ、入ることは認められていなかった。異常個体や想定外の反応を示した植物が育成され、未知の特性に関する解析が行われている。その地域性から、人の往来は少なく運行されている本数も限られていた。


『まもなく、第6区画行きの列車が発車します。ご乗車の方は車内でお待ちください』

 アナウンスだけが響くこの静かなホームに、慌ただしく走ってくる人の姿があった。彼女の左腕のホログラムにデジタル時計が浮かび、カウントダウンされている。

「この列車逃すとヤバいっしょー!」

『お急ぎください、マスター。約1分で発車します。正確には残り45秒です。ですが、駅のホームは走ると危険です』

「今は急いでんのー!」

 ミナは朝が弱く、いつも慌ただしい。この日も例外なく、時間に追われながらホームを駆け抜けていた。


 相変わらず騒がしい一人旅である。ミナが列車に駆け込むと同時にドアが閉まった。

「いやー、第6区画に行く本数は少なくて困るよねー」

 席に腰掛けながら、誰かに聞かれたわけでもないのに駆け込み乗車の言い訳をする。寝ぐせが付いたままの明らかな寝坊姿であった。

『マスターの行動パターンから、リニアの本数が増えても状況は改善しないと推測され──』

「やかましいわ」


 ひと息ついてから、ミナはリュックからガサガサと紙袋を取り出した。紙袋の中からサンドイッチを取り出し、大きく頬張った。

 朝はお気に入りのパン屋のミックスサンドが、ミナの定番であった。


”第6区画か……。半年ぶりね”

 車窓から流れる風景を見ながら、ナタリアと飲み明かした日のことを思い出していた。

 ナタリア・グレイヴスは第6区画の安全管理主任で、ミナの友人でもある。常に冷静沈着で合理的な判断を下す彼女は、どこか機械的な冷たさを感じさせる。

 だが、変わったものや未知の対象には強い関心を持ち、ロストテクノロジーの収集においては異常ともいえる執着心を示す。

 ユグドラシル外界調査隊の、古代技術発掘の主要メンバーも兼務していた。

 研究所内での出世などには全く興味が無く、機能的な作業服を好み、根っからの技術屋であった。


「そういえば、昨日ナタリアが”古代文明の遺産”を再現できたって言ってたけど、何だろう?」

『現在、古代技術調査隊が最も関心を寄せているのが、異次元空間転送技術です』

「……え、なにそれ?」

『遥か昔、人類が人間の魂についての研究を重ね、最後にたどり着いたのが、黄泉の世界への転送技術だと伝えられています』

「ははは、胡散臭いねー」

 ミナはケラケラと笑う。

『はい、文献は少なく、実際の設備等も発見されておりませんし、試験されたという記録も残っておりません。これを再現したという可能性は低いでしょう』

「そっかー、まぁいいや。それは着いてからのお楽しみだね」


 そうして、第6区画へ到着したミナは、タクシーに乗り換えてナタリアのラボを目指した。

 タクシーは全て無人で、リストのAIが目的地を把握し自動で予約を入れている。駅に着く頃には迎えの車が待っていた。

『ご乗車ありがとうございました。目的地に到着です。お忘れ物無いよう、ご注意ください』

 ナタリアのラボに到着したミナは、呆然と立ち尽くしていた。

「……ナタリアのラボ、また大きくなってない?前に来たときはこんなだったっけ」

『半年前に訪れた前回に比べ、施設が20%程拡張されているようです』

 無骨な機械が置かれ、ラボというより鍛冶屋やスクラップ工場のような雰囲気だった。


「おーい!おじゃましますよー」

 ミナの大きな声がラボに響き渡る。すると奥からガシャガシャと金属音を立てながら、作業ロボットが現れた。

『ようこそ、カシワギ様。お待ちしておりました』

 機械的な声で出迎えたのは二足歩行ロボットだった。このロボットは人間のような容姿ではなく、武骨な鉄骨やセンサーで構成された姿をしている。遥か昔、戦争で使われていた人型戦闘マシンだった。

 下半身部分は二足歩行とキャタピラ駆動を自在に切り替えることができ、どのような地形でも安定して射撃を行い、偵察を任務までこなすことができた。

 上半身部分は様々な銃器を使いこなすが、こちらも駆動方式を切り替えて身体を砲身とした砲撃が可能であった。

 現在は発掘したナタリアが修理し、AIを載せ替えて作業ロボットに改造されていた。当然、火器の類は全て解除され、ナタリアを補助するための様々なアームが取り付けられている。


「ナタリアはいるかな?」

『はい、ボスなら試験場の方におります。ご案内致します』

 重量感のある体でガシャガシャと音を立て、ロボットが歩き出す。

”以前来たときは、簡単な指示しかできなかったのに……”

「ねぇ、あなた半年前にも見たよね?同じマシンなの?」

『筐体は同じですが、頭脳《AI》は先月ボスが載せ替えました。初めまして、カシワギ様』

「ミナでいいよー。あなたはなんて名前なの?」

『わかりました。よろしく、ミナ。私はGEARギア-MKIIマークツーです。ギアとお呼びください』


 作業場のようなラボを通り抜け、試験場の方へと向かっていく。いくつかのフロアに分割されているが、ギアは射撃場のような場所へ案内した。

『ボス、ミナをお連れしました』

 魔改造されたリボルバー銃のようなものを試射していた女性が振り返る。ヘルメットを脱ぐと、彼女の赤い髪がなびいていた。


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