第3章 過去に燃ゆる炎 ♢Side:不知火 焔3
「僕たちは、【レジスタンス】。この学園の絶対悪たる、【執行者】に反逆する者たちの集い———って感じの組織だ」
部屋の中を包み込む奇妙な沈黙の中心にて先輩が口にしたのは、そんな見たことも聞いたこともないような不思議な単語。
だがそれは後々の私にとって大きな糸となるものであり、この時間はまさしく運命とでも呼ぶべきものであった。
が———
「えっと......いろいろとよく分かってないんですけど、まずどこから質問すればいいのかを聞いていいですか......?」
はい、そうです。
物語としては大事な折でも、現実の私にとってはそうじゃありません。だから、自分でも支離滅裂だと思います。とっても恥ずかしいです。
......いや、でもさぁ、リアルで考えたら絶対こうなると思うんだよね?
こんなこと言われてすんなりリアクション取れるのって、多分どっかのノンデリカシー女顔高校生くらいじゃないかな?
なんと言っても、デリカシーがないからね。
はぁ......もしテイク2ができるのであれば、もっとしっかりしたカッコいいリアクションがしたいな。正直、一番最初に思ったのも、高校生にもなって何言ってんのこの人、だもん。
「ちょっと、ちょっと! 不知火ちゃんほんとに何も知らないじゃん!!」
「ふむ。未知への探求というのも理解できますが、これはいささか強引ではないかと」
「いや、だから君たちがいない時を狙ったんでしょ!!」
と、そうこうしてる間にもギャル風少女となんとも言えないおかっぱ少女2人が、やかましくギャーギャーと騒ぎ出す。
そんな2人を宥めるかのようにしていた神藤先輩だったが、収拾がつかないのを悟りまたもや自分の顔に手を当て始める。
「誰もいなければここが【レジスタンス】アジトなんて分からないし、他に話を聞かれる危険もない。どの道、彼女には僕たちのことは黙っててもらわなきゃだし、その辺も含めて一回話をしようと思ったんだ」
はぁと、もはやこの時だけで何回目になるか分からない神藤先輩のため息。さっきのも見てる限り、きっと普段から苦労人気質なのであろう。
......まぁ、でもあれだ。
これで先輩がわざわざ私に声をかけてきた理由がはっきりした。
そう。全ては、私に組織のことを口止めをさせるためであり、それ以上でも以下でもない。
そこには特別な何かなどあるはずもなく、結局のところ私が1人で舞い上がっていたというだけだったのだ。
「......ぐすん。つまり、副リーダーは私がここにいるのはお邪魔だと。ひどい。私はこんなにも、あなたを想い続けているというのに」
「ちょっ!? そんなつもりで言ったんじゃ———!」
「あー、ひどーい!! 神藤が有栖ちゃん泣かせた!! ちょー、ありえないんですけど!!」
「言ってやるな。この男がタチの悪い女泣かせなのは、今に始まったことではない」
「あれ、これもしかして僕が悪いの!?」
あぁ、やっぱり......この楽しげなやり取りの中に、私が入り込めるような隙はない。
その場に形成される温かな空間の外側で、ただただ同じ空気だけを吸っているかのような疎外感......このどうしようもない居心地の悪さは、私があの家で感じていたものとよく似ている。
あの家とここの違いは、それが悪意によるものか否かということだけ。私も彼らと同じ空間にいるはずなのに、私の世界はなおも薄暗い灰色に染まっている。
「......しかし、参ったな。神藤だけならばともかく、俺や他の皆の顔も見られたのはマズい。悪いが、タダでここから帰すわけにはいかなくなった」
「ちょ、明」
ああ、そうだ。
あの人の言う通り、私はこの場における異物。例え全てが偶然の産物だとしても、彼らにとって私が組織の存在を知ってしまった爆弾であることに変わりはない。
ここにならば自分の本当の居場所があるかもしれない———そんな私の考えこそが、全くの見当違いであったのだ。
「......大丈夫です、先輩。私も、自分の立場は分かってるつもりです」
「不知火くん......」
今までと何も変わらない。
またいつものように外界と隔絶され、私は自分の灰色の世界へと帰るのみ。
そうなれば、きっと......先輩と会うこともないだろう。
でも、それでいい。
先輩には先輩の居場所があって、私には私の世界がある———
「今の私はここにいるべきではない人間———だからこそ、私をこの組織に入れてください」
「「「「!!!!」」」」
そう、頭では分かっていたはずなのに......気づいた時にはもう私はそんなことを口にしていた。
喧騒は止み、周囲の人たちからの視線が突き刺さる。でも、この場の誰よりも驚いているのはそれを言った私自身。
なぜ、諦めなかった?
なぜ、いつものように立ち去らなかった?
自分の中に知らない自分がいるような気がして、私の体は小刻みに震えている。
「少女、お前———」
「待ってくれ、明」
青年のことを手で制止し、神藤先輩は私の前に歩み出る。
「......不知火くん、本当にいいのかい?」
「はい」
「自分が何を言っているのか理解してる? 君の進もうとしている道は、決して楽なものではないよ」
先輩が今向けているのは、さっきのケンカの時に見せた凄まじい圧———なのに不思議と、私は恐怖を感じていなかった。
それが、先輩らしい遠ざけるためにわざとやっているだとか、私が先輩の言うことの全てを理解していないからだとか、多分そんなものは関係ない。
「私、は......自分の力をずっと、自分のためだけに使うよう強いられてきました。私は他の皆とは違う......ただ言われたことに従っていればいいと、ずっとそんな線引きをしてきた。
でも違う。この学園に......ここには、私にそんな生き方を強いる存在はいない。私はもう、何にも縛られない自由の身。だから私は、ここで変わりたい。ここにいる皆さんのように、自分の本当にしたいことを選べるようになりたい」
———この時のことは、今でも時折考える時がある。
どうしてこんなこと言ったんだろう、とか。なんで今さらになってそんなことを考えたんだろう、とか。後々になってからの方が、不思議とそういった感覚に見舞われている。
もしも、このまま勇気を出さないでいたらどうなっていたことか?
多分だけど、私はずっとあの家に縛られ続けていたことだろう。
当時の私がそこまで考えていたかどうか、正直なところ分からない。だけどこれは、私が生まれて初めて、自分自身の意思を貫いた瞬間であった。
「......やっぱり、俺の目に狂いはなかったな」
「明」
すると、奥のイスに座っていた青年———もとい、【レジスタンス】リーダーである豪月先輩は、満足げな表情で立ち上がる。
「いいだろう。この豪月 明、【レジスタンス】リーダーとしてお前のことを歓迎する。改めてよろしく頼むぞ、不知火!!」
こうして私は【レジスタンス】の一員となり、当時のリーダー豪月 明と、優しき2年生畠中 傑、ギャル風3年生大河沙耶 、バスケ命田中 一の3人。
それと最後に、あのなんとも言えない感じの少女こと秋雨 有栖———実はあの童顔とおかっぱ髪で畠中先輩と同じ2年生だという事実が、この顔合わせでの一番の驚きとなった。




