第13章ノ1 ビックニュース
8月に入り、月見商店街はこれまでにない賑わいを見せていた。『青短新聞』を見たという人々が、朝からひっきりなしに訪れているのだ。『こいこい』の店先にも、隣町の子供たちや女子高生たちが群がるようにたむろしていた。
大五郎はカウンター席にどっかりと座りながら、特徴的なちょんまげを前足で器用に整えた。すると、ガラス戸の向こうから、女子高生たちの黄色い歓声が弾ける。
「きゃーー! 今の見た!? かわいい!!」
大五郎はまんざらでもない顔をして、今度は前足をぺろぺろと舐めて毛づくろいをし始めた。そのあざとい仕草に、先ほどよりいっそう大きな歓声が湧き上がる。
「かわいいいい!!!!」
ほまれはカウンターに頬杖を突き、その様子を呆れたように見つめていた。
「一躍人気者だね、大五郎」
「本当……ありがたいことに、このお猫様のおかげで、ここ数日の『こいこい』の売り上げはすごいわよ」
シュッ、シュッ、とリズミカルな音を立てて店内の床にモップを掛けていたひめが、額に滲んだ汗を手の甲で拭いながら明るい声を上げた。
「最近は宇宙開発機構だっけ? 山本さんたちがピタッとお店にいらっしゃらなくなったから……どうなることかと思ったけど、助かったよ」
ほまれはカウンターの下から取り出した帳簿ノートをペラペラとめくり、数字の羅列を指でなぞりながら安堵の息を吐いた。 7月の終盤、開業当初に足繁く通ってくれていた常連客の足が遠のき始めた頃は、正直焦りもあった。もっぱら一見の客や、ご近所の方が様子見がてらお茶を飲みに来てくれる程度の日々。それが、『青短新聞』に掲載された翌日から空気が一変した。みるみるうちに客足は伸び、最近では夜の予約席がいくつか埋まるほどには盛況を取り戻している。
「この間、買い出しの時にさいかちゃんに会って聞いたんだけどね。商店街のほうも少しお客さんが戻ってきたって、すっごく喜んでたよ!」
厨房の奥から、元気な声が飛び出してきた。見れば小鶴が、ツヤツヤのピーマンと包丁を両手に握りしめたまま暖簾から顔を覗かせている。その横では小町も、紫色の立派なナスとピーラーを持ったままニコニコと頷いていた。
「そういえば……最近、さいかちゃん、お店に来ないね……」
みんなの明るい声に少しだけ影を落とすように、しずくがぽつりと呟いた。
「そっか、しずくは最近さいかに会ってないよね。酒屋さんのお仕事が忙しいらしくて、お酒を届けたらすぐに帰っちゃうんだ。『ラムネでも飲んでいってよ』って声かけてるんだけどね」
ほまれも、少し眉尻を下げて寂しそうに言った。開店準備の忙しい時間帯とはいえ、いつも賑やかに笑い合っていた友人の顔を見られないのは、やはり少し物足りない。
「それに、町内会長さん……さいかちゃんのお父さんのお手伝いも大変みたいよ」
ひめは、ピタリとモップの手を止めて、思い出すように視線を上げた。
「この間、商店街の奥にある遺跡公園の物置の前でさ。おじさんおばさんたちと、図面みたいなの広げて何やら真剣に話してるの見たんだよね」
「図面!?」
ほまれは、もっと話を詳しく聞かせてほしいと、思わずカウンターから身を乗り出した。
「そう。遠くてよくは聞こえなかったけど、夏祭りがどうのこうのって……」
ひめの言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、『こいこい』の引き戸がガラッと勢いよく開いた。 外で大五郎に群がっていた女子高生たちが驚いて道を開けたその真ん中に、息を切らして堂々と仁王立ちするさいかの姿があった。
「ほまれ! ビックニュース! 夏祭り復活できるかも!」
前掛けを揺らしながら、さいかの弾むような大声が店内に響き渡った。




