第5章ノ2 かわいいは正義
「かわいいいいい!!!!」
2階のリビングに絶叫が響き渡った。ほまれとひめは興奮を隠せない様子で、小料理屋『こいこい』の制服に身を包んだ双子を見つめている。
双子の健康的な褐色の肌には、ひめが密かに用意していた、ミニスカ風に改良された別バージョンの制服が恐ろしいほどよく映えていた。 二人は指を絡み合わせるようにして向かい合い、鏡の前で照れくさそうにポーズをとる。
「うぅ……!! ミニスカ制服、作っておいてよかった……っ! えらい、私ぃいいい!」
ひめが、自画自賛しながら感極まったように拳を握る。
「本当に似合ってる!……可愛すぎるよ!」
ほまれも、横から、後ろから、あらゆる角度から双子を眺めてはため息をついた。 お伽話から抜け出してきたような金髪の少女たちが、自分たちの店を手伝ってくれる。その奇跡のような光景に、胸が高鳴る。
「小町…困った。そんなに褒められたら…照れちゃう」
「あんまりジロジロ見ないでよぉ」
小町と小鶴は、握り合った手をぎゅっと繋ぎ直し、はにかんだ。
「そうだ! リボン! 何色がいいかな!」
ほまれは、大切に保管していたリボンのストックを取り出した。色とりどりのサテンリボンが、竹籠の中で宝石箱のように艶やかな光を放っている。
「私、このひまわりみたいなオレンジがいい」
小町が、迷わず温かみのある鮮やかなオレンジ色のリボンを指差した。
「じゃあ……私は、この緑色。おじいちゃんの畑の、葉っぱの色」
小鶴も、気に入った様子で深い緑のリボンを選んだ。
「じゃあ、私たちが付けてあげる!」
ひめとほまれは一本ずつリボンを手に取ると、双子の背後に回り、その細い首元に優しく巻き付けた。褐色の肌に、ビビッドなオレンジとグリーン。そのコントラストが、彼女たちの持つ生命力をさらに際立たせる。
「……できた!」
二人が手を離すと、そこには完璧にこいこいの看板娘へと変身した双子が立っていた。
「ぐぅうううう……っ! ぎゃわいすぎるううううう!!!」
ひめはあまりの愛くるしさに、言葉にならない悲鳴を上げながら悶絶した。
「見てよほまれ! この色の組み合わせ!」
「うん、本当に……お人形さんみたい」
完成された双子を目の前にして、興奮するひめとは対照的に、ほまれは静かに見惚れていた。 そこへ、一階から上がってきた五郎が、香ばしい醤油の香りを漂わせながら部屋に入ってきた。その手には、山盛りの焼きおにぎりが乗った大きなお盆が握られている。
「戦いの前に腹ごしらえだ」
その言葉に引き寄せられるように、ほまれが壁の時計に目をやる。秒針はすでに14時を指していた。開店、そして40人の軍団が襲来する時刻まで、残された時間はあとわずかだ。
「「おいしそう……!」」
小町と小鶴が吸い寄せられるように焼きおにぎりを見つめ、同時に声を漏らした。
「ひめ、ほまれ。冷蔵庫からジュースを持ってこい」
五郎の指示に、二人は「はーい!」と元気よく返事をして、リビングの冷蔵庫へと走っていった。
リビングに置かれた大きなダイニングテーブルに五人は腰を掛ける。 五郎が握った焼きおにぎりは、大ぶりでずっしりと重みがあった。
「いただきます!」
ほまれが両手で持ち上げてかぶりつくと、カリッ、と小気味良い音が響いた。 刷毛で何度も重ね塗りされたであろう醤油が、表面で香ばしく焦げて薄いおこげのようになっている。そのカリカリの層を突破すると、中からはふっくらとした純白の白米が、ふわりと湯気を立てて顔を出した。
「んんっ……! 外は香ばしいのに、中のお米が甘くてモチモチ!」
「本当だ! 焦がし醤油の匂いがたまんない……! はふっ、あつっ」
ひめも熱さに息を漏らしながら、夢中で頬張っている。
「小町、おにぎり大好き。おいしい」
「小鶴も。五郎さん、お料理すごく上手だね」
双子も、小さな口をいっぱいに開けてかぶりつき、幸せそうに頬を緩めている。 表面がカリッと焼かれた醤油の香ばしさ。中から溢れる米の甘み。この後待ち受ける壮絶な試練を前に、温かな炭水化物が五人の心と体に力強いエネルギーを充填していく。
あっという間に、お盆の上で山盛りだったおにぎりは姿を消した。
「ごちそうさまでした!」
双子の元気な声と、ほまれとひめの声が重なり、いままでよりも一段と明るく頼もしい声がリビングに響き渡る。
「……よし。食ったな。それじゃ気合をいれて行くぞ」
五郎の言葉に、4人の少女たちは「はいっ!」と勢いよく立ち上がった。




