第35話 12月15日 ハル
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B駅に隣接する駅ビルは、日曜日ということもあって家族連れやカップルでかなりの賑わいを見せていた。
私はといえば、大学で使うノートや筆記用具といったちょっとした買い物を済ませた帰りに、そのまま上の階にある大型書店へと足を運んでいた。
普段、本は電子書籍としてタブレットで読むことが多くなっていたけれど、漫画や軽いエッセイとは別に、小説や専門的な資料やしっかりと活字を追いたいときは、やっぱり紙の書籍で読むに越したことはない。
人によるのだろうけれど、私はどうもディスプレイでは、文字が滑って頭に入ってこない質だった。
新書コーナーの棚をあてもなくうろうろとしていると、カバンの中からポンポポン、ポンポポン、とバイブレーションと共に、少し気の抜けた着信音が響いた。
他のお客さんの迷惑にならないよう急ぎ足で書店を出て、フロアの隅へと移動しながらスマホを取り出し、ディスプレイを確認する。
画面に表示された名前は――『トウヤ君』。
週末に教授と出かけて以来、LIMEを送っても既読すらつかず、ずっと圏外のままだった。連絡が途絶えていたから少しだけ心配していたけれど、彼からの待ちに待った着信だった。
私は画面の通話ボタンを素早くタップし、耳に当てた。
「もしもし、トウヤ君?」
『あ、もしもし、ハル。……今、こっちに戻ってきたよ』
電話越しの彼の声を聞いてホッと胸をなでおろし、私は近くにあったエレベーター横の休憩用ソファに腰掛けた。
「おかえりなさい。お疲れ様。……それで、調査はどうだった?何か分かった?」
焦る気持ちを抑えきれずに尋ねる。トウヤ君は少しの間を置いてから答えた。
『それがさ……』
受話器から聞こえる彼の声は、どこか安堵したように明るかったけれど、その奥には、憂いを帯びているようにも聞こえた。
『あの水を止める方法、あるにはあるっぽいんだけど……』
「だけど……?」
核心に触れようとした、その時だった。
「ギャーーー!」
すぐ近くで、ひっくり返ったような小さな子供の泣き声がフロアにこだました。
見ると、おもちゃ売り場の方向へ走ろうとした男の子が派手に転んでしまったらしい。慌てて駆け寄った母親らしき女性が、周囲に対して「すみません、すみません……」と恐縮そうに何度も小さく頭を下げながら、泣き叫ぶ子供を抱き上げてベビーカーに回収し、足早に去っていった。
その一連のドタバタがなんだかちょっとコミカルで、シリアスな話をしている途中だというのに、私は「ふふっ」と、思わず少しだけ緊張の解けた笑い声を漏らしてしまった。
『……あ、ハル? もしかして、今どこか外にいる?』
電話の向こうで、トウヤ君が周囲の喧騒に気づいて尋ねてくる。
「あ、うん、ごめん。今B駅の駅ビルにある本屋さんの前なんだ。ちょっと騒がしかったよね、静かなところに移動しようか?」
『いや、大丈夫。実は、俺も今ちょうどB駅のロータリーに着いたところだから。……そうだ、だったらこれから直接会って話そう。駅近くのあのカフェで、いいかな』
「うん、わかった。じゃあ、すぐに向かうね。後で」
「じゃあね」と言って終話ボタンをタップする。
彼のあの複雑な声のトーンからは、解決する決定的な手がかりを掴めたのか、それとも絶望的な現実を突きつけられただけなのか、まだ判断がつかなかった。
けれど、とにかく今は一刻も早く、彼が山奥で見てきた真相を聞きに行こう。私はスマホをカバンにしまうと、駅ビルの雑踏をすり抜けるようにして、いつものカフェへと急いだ。
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