第11話 12月3日 ソウジ
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自分の部屋のベッドで、僕はゴロリと寝転がりながらスマートフォンを眺めていた。
今日の練習で、ハルさんのことが心配なあまり無意識に余計な力が入りすぎていたらしい。右手の親指と人差し指が、じんわりと熱を持って水ぶくれになっており、小さくズキズキと痛んだ。
痛む指先を庇うように、左手だけでLIMEのチャット画面を開く。
画面に表示されているのは、さっき僕が送信したメッセージだ。
(……結局、送っちゃったな)
送るべきか、それとも自重すべきか、あれほど悩んでいたはずなのに。ハルさんへのLIMEの文面を改めて読み返してみるが、我ながらなんともありきたりで、芸のない言葉だった。
『ハルさん、大丈夫ですか?』
まだ『既読』の文字はつかない。
本当に送っても良かったのだろうか。大切な親友を亡くしたばかりの彼女にとって、僕からの連絡なんて、ただのありがた迷惑でしかないんじゃないだろうか。
ぐるぐるとネガティブな思考が渦巻く中、ハルさんのあの輝くような笑顔が脳裏に浮かぶ。
……僕はただ、またあの笑顔が見たいだけなのだ。
そして、この深い絶望の淵にいる彼女の、少しでも、ほんの少しでも支えになれたら、それは僕にとってこの上ない僥倖だ。それ以上は望まない。いや、本音を言えば望めるならもっと特別な関係になりたいと望みたいけれど……今の僕にはそんな資格も、不謹慎な真似をする度胸もない。
画面をじっと見つめていると、突如、メッセージの横に変化があった。
『既読』
――見てくれた。
心臓がドクンと跳ね上がる。それだけで、まるで天にも昇るかのように舞い上がってしまいそうになる自分が、なんだか酷く浅はかで虚しい。
でも、既読がついたからには、ここからが本番だ。次にどのような言葉を紡げば、彼女の心を少しでも解きほぐすことができるのだろうか。
そんなことを必死に考えていた矢先、スマホがピコンと短い通知音を鳴らした。
『大丈夫だよ ありがとう』
思いがけない即答だった。
しかも、いつも彼女がメッセージの末尾に付けてくれる可愛い顔文字や、お気に入りのキャラクターのスタンプの類は一切ない。ただ、文字だけがぽつんと並んでいる。
文字面では『大丈夫』と強がってはいるものの、これでは明らかに大丈夫ではない。完全に無理をしている。
こういうとき、年上の女性に、しかもこんな人生の重大な局面を迎えている人に、一体どのような言葉をかけるべきなのか……。
頭が真っ白になり、焦って悩みに悩んだ挙句、僕は自分でも後から驚くような、暴走気味のメッセージを指先一つで送信してしまっていた。
『会えませんか』
送信ボタンを押した直後、激しい後悔が襲ってきた。なんだこれ、これじゃまるで僕がどさくさに紛れて彼女を口説いているみたいじゃないか。あまりにも直接的すぎて、語彙が乏しい自分の脳みそが心底嫌になる。
しかし、すぐに『既読』がつき、間を置かずにその返信は届いた。
『ありがとう。20時にB駅のカフェで待ち合わせ。大丈夫かな』
「え……」
憧れの女性と、初めて二人きりで会える。その事実に、一瞬だけ心臓が痛いくらいに高鳴った。
だが、今は状況が状況だ。親友が亡くなって、大学中がその噂で持ちきりになっているような最悪のタイミング。喜んでいる場合では決してない。
なんだか、彼女の精神が弱っている所に、タイミングよく心の隙を突くような真似をしてしまった気がして、どす黒い罪悪感も感じなくはなかった。
……いや、違う。これは純粋に、一人のサークルの仲間として、彼女を心から心配してのことだ。下心なんてない。なにも後ろめたいことはないはずだ。自分にそう強く言い聞かせる。
とにかく、まずはこれ以上彼女を待たせないように返信を打つ。
『大丈夫です。では、現地で』
舞い上がる気持ちを必死に抑え込み、極力、普段通りの平静を装ってメッセージを送った。
スマホの時計に目をやると、時刻はまだ19時前。
待ち合わせのB駅までは、ここからなら急がなくても十分に間に合う時間だ。
ベッドから飛び起き、洗面台へと向かう。寝癖のついた髪を直して、だらしのない部屋着から少しはマシな服に着替えて、それから……。
僕は少しでも彼女の痛みを和らげる存在になれるだろうか。緊張で硬くなる身体を震わせながら、僕は出かける準備を始めた。
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