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第46曲 祝福間違いと二体目の仙人掌

婚礼の数日後、留学期間を終えたドミナン王子がビョルクを迎えに来た。


もちろん事前に連絡は受けていたので、しっかり者のビョルクは自分で荷造りも整え、王子の迎えを待っていた。


テンもティルポルに連れられて見送りに来ている。

心なしか目が潤んでいるようではあるが、別れに涙は禁物と、懸命に我慢しているのが健気である。


「来年には戴冠式を執り行う予定である。貴殿らも招待するので、万難を排して参列するがよろしいぞ」


ドミナン王子は、断られることを考えもしない傲岸さで告げた。


ビョルクが電話でクヘル小王子から聞いた話では、エセンとラハーレの婚礼に招待されなかったことを、王子はだいぶ恨みがましい口調で愚痴っていたようである。


婚礼の招待客を選別するにあたり、ドミナン王子の存在が脳裏をよぎらなくもなかったのだが、他国の次期国王にご臨席されてしまうと、さすがに無礼講というわけにもいかない。


まして今回は出席者全員がにわか親族という立場での参加になったため、王子の性格からして、自分も親族席に加えてくれなどと言い出しかねない。

次期国王が親族を主張するとか、そんな面倒はごめんこうむりたかったエセンは、候補の一覧からそっと王子の名を外したのだった。


うなちゃんは今、何故か小さな姿に擬態して、見送りに立つエセンの肩に乗っている。


ビョルクの護衛がラハーレ邸に滞在していることから、うなちゃんの存在は隠しきれるものでもなく、当然ドミナン王子はその存在を把握しているはずだ。


表向きは、龍ではなく古大陸由来のしゃべる有毛陸生うなぎ、という冷静に考えると珍妙な設定になっているが、ある程度の真相は王子側に知られていると思った方が良いだろう。


王子はうなちゃんを眼力鋭く見ると、ひとつ頷いた。


「うむ、なかなか良き面構えである。して、うなちゃんが何か祝福を授けたと聞くが、どのような内容であったのか」


来たな、とエセンは身構えた。


「おらなぁ、子孫繁栄の祝福をしたかったんじゃけんどなぁ、ちょこーっと間違えてしもうてなぁ、()()()の祝福をしてもうたんじゃあ」


ぶっ、と背後でヨンカが吹いた。


「さようか。子沢山とはどの程度であるか?」

「んだなぁ、ざっと十人か、うんにゃ二十人くらいだべか」

「それ、祝福というよりむしろ呪いじゃね?」


ヨンカが小声で呟いている。


ドミナン王子は、ラハーレの肩に分厚い手のひらを置き、しみじみと告げた。


「大変であるな。励むがよかろう」

「……………」


ラハーレはもはや死んだ目をして、返す言葉もない様子だ。


いや、もっと大変なのこっちじゃね?とエセンは思った。


「エセンちゃん、ぼくのいとこが生まれたらおしえてね。会いにくるからね!」

「えせんちゃ、ぼくも、ぼくも!」


子どもらの曇りなき(まなこ)と朝日が眩しい。

どうやら甥っ子設定はまだ、生きているようである。


「ビョルクはまず、自分のことを守ってね。何かあったらいつでも頼って、何もなくても連絡してね」

「うん!」


全力の笑みで答えると、ビョルクは王子一行と共に旅立って行った。


残されたテンは元の大きさに戻ったうなちゃんにしがみついて、涙を堪えているようだ。

放置されたティルポルからは若干の嫉妬(ジェラシー)と寂寥を感じなくもないが、もふれるものは正義だから、とエセンは雑に慰めておいた。





秋も深まり、宵っぱりなエーレの人々も徐々に、朝起きて夜に寝るという普通の生活に近づきつつある。


環星辰商会の小型機で昼過ぎに首都クープを発ったエセンとラハーレは、翁の庵へ向かっていた。


ジンシャーとうなちゃんも同行している。

瑞蝶フェルトワは、ここのところうなちゃんの頭の上が気に入ったようで、今日も定位置に止まっている。


うなちゃんは、自分が躰を大きく変化させてエセンを乗せていく!と主張したが、さすがに危険だしむしろ問題しかないので、丁重にお断りした。


さぼくんは、最近好い仲になったらしいさぼこちゃんと横並び席に座って、なんとなくいちゃいちゃ感を出してきているのが腹立たしい。


さぼこちゃんの名付け親は、財務局長トルエミスである。

あえて確認はしていないが、おそらく、さぼくんの呼び名も同様であろう。


先日トルエミスが東方から仕入れた卓上遊戯が、正方形の盤の四辺に一人ずつ、計四人が座って興じるものであったため、今までの面子では一人足りない、ということになったらしい。


するとさぼくんが、左の茎節に右のそれをぽんと打ちつけ、すっくと立ち上がった。


予想外に素早い動きで庭へ出て行ったさぼくんは、一体の小柄な新型仙人掌を連れて戻ってきた。


新入り仙人掌は、楚々とした物腰で会釈するような動きを見せた。

それがさぼこちゃんである。


一見、おっとり大人しげに見えるさぼこちゃんであるが、盤上ではなかなかえげつない戦いぶりを披露しているようだ。


「女性を本気にさせたら、男に勝ち目はありませんよ」


仙人掌に株ごとの雌雄があるかはともかくとして、ラプソンは性別に関する悟りを得たようで何よりである。


そんなこんなで、さぼこちゃんもラハーレ一家に加わったわけであるが、横並び席に仙人掌が二体、稲妻形の姿勢をとって座っているのは、なかなか超現実的(シュール)な光景だ。


本日のシャルリアンテ機長による機内放送は、エセンが一晩で衝動的に書き上げた新作、『星の旅』である。


古大陸の王女が書き残した星の譜は、そのまま世に出してはさすがに盗作になってしまうが、元の曲に着想を得てエセンが書き下ろしたものを、古大陸作品への表敬(オマージュ)であることを明記した上で世に出した。


初めは器楽曲として作られたのだが、それを聴いて感銘を受けた情熱の詩人ムルエスが、ポランへの想いを暗に込めた暑苦しい詞をつけた。


歌詞を目にしたグレカディオが大笑いして、環星辰商会の関連子会社一押しの新人歌手に歌わせてみることになったのであるが、これが関係者の誰ひとりとして予期しなかった空前絶後の大成功(ヒット)となり、今や電波放送で『星の旅』を聴かない日はないほどである。

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