第42曲 守護龍とは
当然のことながら評議会が緊急招集され、その日の夜には関係者が円卓の間に集った。
「エセンさぁ。守護龍とか冗談きついんだけど、ほんとにまじで何なのおまえ」
「じさま、こちらのエセンどんは、おらの恩人だで、あんまし苛めんでやってほしいんだべ」
「じさま……」
高殺傷力語句に愕然とするオード。
純粋すぎて忖度を知らない白龍うなちゃんは、初手の一発で評議会第一席を床に沈めた。
ポランやシャンスは、笑いすぎて息が止まりそうになっている。
もちろんエセンは、よくやった、とうなちゃんをほめてやった。
「エセンさん、ご無事のお戻り何よりです。これにて、古大陸の王女は最後の思い残しが解消され、王女の想いが具現化した葬送蝶は、完全なる瑞蝶へと格が上がりました」
うなちゃんとは別の意味で忖度しないマリアロは、場の空気に関係なく淡々と説明した。
薄々察してはいたが、やはりそういうことか、とエセンは改めて納得した。
道理で、やたらと事情通な蝶であったはずだ。
うなちゃんを何としてでも救い出したいと望んだ古大陸の王女は、肉体と魂がこの世界を去ったあとも想いだけが永く彷徨ううちに、次第に人であったことを忘れ、葬送蝶としてモナの魂を運ぶ役割を担うに至った。
そのあたりも偶然ではなく、王女が保険として生前に遺したいくつかの仕掛けにより、縁が縁を引き寄せたのだろうと、マリアロは語った。
葬送蝶として他者のため役割を全うするうち、少しずつ浄化が進んで瑞蝶に限りなく近づきつつあったものの、うなちゃんの無事を確認するまでは最後の心残りが燻っていた。
それがゆえに世界間の移動が安定しなかったものの、今はもう王女の想いはすべて往くべき所へ還っており、瑞蝶の中に王女の意識は残っていないという。
碧瑠璃の瑞蝶は喜びの大きさを表すように、無限大を意味する横八の字に飛んでいる。
「それでエセンどん、守護龍にはしてくれるんかのぅ?」
守護龍とかそういう類いのものは普通、こちらから頼み込んでなってもらうものであって、頼まれてしてあげるものではないのではなかろうか。
ものすごく期待する眼差しを向けられたエセンは、さすがに返す言葉に窮した。
見かねたグレカディオが助け舟を出す。
「守護龍って、具体的には何をするものなの?」
「おっ母さんは、王さまの守護龍じゃったでのぅ、王さまや子孫や国そのものを守っておったが、エセンどんは王さまではないんだべ?」
「王女さまとは友だちだったんでしょう?私とも友だちじゃだめなの?」
うなちゃんは、駄々をこねるようにいやいやとかぶりを振った。
「おらな、ただの友だちではのうて、おっ母さんのような立派な守護龍になりたいんだべ」
「あー、知り合いに未来の王さまいるから、紹介しようか?」
とうとう王さま斡旋業まで始めそうなエセンである。
「違うんじゃ、おらはエセンどんの守護龍になりたいんじゃ。おらだち龍族はなぁ、一度忠義を感じたら簡単には心変わりしないんだべ。しつこいんじゃ」
それは見ていればわかる、と一同頷いた。
「ま、いっか。守護龍でも何でもいいから、とりあえずうちにおいで」
「面倒になったんだろ、おまえ」
オードがぼそりと呟くが、うなちゃんは構わず喜色満面でエセンに飛びつくと、その右手首に白い毛の生えた尾を巻きつけた。
「わっ、」
びりりと刺激が走り、小さな雷のようなものが見えた。
ラハーレが駆け寄りエセンの手首を確認するが、見た目には特段変化はない。
「契約完了じゃな。エセンおぬしそのうち、全身契約だらけになるのではないか?」
はぁーとため息をつく今日のベケルは、藤色の髪である。
「契約内容に何か、エセンの不利になるようなことはないのか?」
ポランが心配そうにうなちゃんを見た。
「む、たぶんないべな?」
「たぶん?」
「エセンどんの家に住まわせてもろうてなぁ、飯は大気からとるもんでいらんけども、おやつは欲しいのじゃ。あとは、結婚するときに守護龍の査定が入るんだべ」
おいそれ、先に言えや!と一同からの突っ込みが入った。
それにしても、古大陸由来の生きものが揃いも揃っておやつにこだわるのは、なんなのか。
この分では、瑞蝶もおやつを欲しいとか言い出しそうである。
「うなちゃん、エセンちゃんはもう結婚してるんだけど、近々結婚式を挙げる予定なのよ」
「なぬぅ、相手はどこのどいつじゃ」
シャンスがラハーレを指し示した。
うなちゃんはラハーレの前へうねりながら飛んでいくと、穴が開くほどじぃーーーっと見つめた。
対するラハーレはいつもの無表情だ。
「む、よかろ。ちぃーっとばかし歳は離れておるがのぅ、おらだち長命の龍族からしたら鼻毛一本の差じゃ」
「鼻毛一本…」
「肝が座っておるのが気に入ったでな、祝福してやるべさ。して、式はいつなんだべ?」
鼻毛と聞いて、若干微妙な表情になりながらも安堵した一同に、うなちゃんは向き直った。
「もうひと月もありません」
行政長ジャヌーアが厳然とした口調で答えた。
「そりゃ大変じゃあ〜、すぐに準備せなならん!」
宣言するなり、慌てた様子でうなちゃんは窓から出て行ってしまった。
すると、それまで大人しくしていた御老公が車椅子の上でふんぞり返った。
「わしは、お祖父様席じゃからな?」
「私は姉席だぞ」
「私もー」
「わしはお婆さまじゃ」
その後も、いとこだ伯父だと皆がうるさいので、根負けして親族席を設けることを承知したエセンとラハーレであった。




