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第41曲 ひとときの邂逅と龍の仔

気づけば、ラハーレに抱えられて見慣れた自室の床に坐り込んでおり、近くにはヨンカとラプソンも見えた。

服の裾にはジンシャーがかじりついている。


となれば、おそらく第八世界へ飛んでからそう長くは経っていないのだろう。


一気に時が進むようなことになっていなくて良かったが、一方で、少しだけ歳をとってラハーレとの差が縮まるなら、それはそれでありかもと思わないでもない。


身じろぎしたエセンに気づき、ラハーレが口を開こうとしたその時、大型犬くらいの何かが飛びついてきて視界を占領した。


「うわ、重い!」


押しつぶされかけたエセンを、皆が救出する。


引き剥がされたそれは、


「ーーーーーーーうなぎ?」


白い毛の生えたうなぎ、としか言いようのない生きものが、ラハーレとラプソンに羽交い締めにされた状態で黒々とした瞳を潤ませながらエセンを見ていた。


「すまんのぅ〜、おらがおまさを飛ばしちまっただ〜。恩人だっつのによぅ。許してけれ〜」


聞こえてきた声は可愛らしい幼な子のものだが、語り口が昔話のじいさんばあさんみたいなので、対象認識が誤作動しそうだ。


「毛の生えた、うなぎ?」

「うんうん、突っ込みたくなりますよね」


先に未知との遭遇を済ませていたらしいヨンカが、悟ったように頷いている。


そこで、エセンの肩に止まっていた碧瑠璃の蝶が動いた。

よろめくようにふらふらと白いうなぎの方へ飛んで行く途中で、蝶の躰から湯気のような何かがうっすらと人の形をとって浮かび上がった。


年頃の少女に見えるそれに気づいたうなぎが、切羽詰まった様子で身をよじり、男ふたりがかりの拘束から抜け出した。


空中に踊り出たうなぎと湯気の少女は、ひし、と手を取り合うような雰囲気で邂逅を果たした。


「感動的な場面なんだろうけど、」

「絵面が超現実的(シュール)すぎて、なんか微妙ですね〜」


少女は口をぱくぱくと動かして、何かを伝えようとしているようだ。

エセンたちには聞こえていないが、うなぎが何度も頷く仕草を見せていることから、少なくとも意図は伝わっているらしい。


白いうなぎの無事を確認できたことによって、最後の心残りが洗い流されたのだろうか。

少女の姿をかたどっていた湯気のようなものは、次第に人の形を保てなくなり、そよ風に散らされて窓の外へ流れゆこうとしていた。


エセンの方へ向き直って、「ありがとう」と口を動かしたのを最後に、少女の姿はかき消えた。


白いうなぎは、空中を泳ぐように走ってエセンに飛びつくと、大粒の涙を流しておーいおいおいと泣き出した。


どうしたものかと困って、白い頭の後ろあたりをぽんぽんと叩いてやる。

ジンシャーもやや仕方なさそうな様子ながら、白い躰を舐めてやっている。


少し離れた場所で、碧瑠璃の蝶が所在なさげに滞空していた。

べこべこ頭を下げるような動きをしており、どうやら謝りたいようなので、エセンは鷹揚に頷いておく。


そんな彼女を、膝の上の白いうなぎごと、ラハーレの大きな影と気配が包み込んだ。


そのまま何も言わず動かなくなったラハーレを見ながら、背後のラプソンとヨンカは、肩の力が抜けたように苦笑していた。





「それで、あなたが白龍の仔なのね?」

「んだ。エセンどん、お助けくだされて、ほんにかたじけないのぅ。このとおりじゃて」


白いうなぎ改め、白龍の仔は、短すぎて届かない胸びれを懸命に合わせようとしている。


「えーと、なんて呼べばいいのかしら」

「お姫は、『うな』と呼んでおったけんど、」

「見た目まんまかい!」


反射的にヨンカが突っ込みを入れた。

突っ込みたくなる気持ちは、エセンもよくわかる。


「呼び方は何でも良いぞな。こっからは恩人のエセンどんにどこまでもついていくべさ。守護龍になってもいいけんども」

「んー?うーん、守護龍か〜。ちょ〜っと壮大すぎるかなぁ」


自信満々な感じで、胸だか腹だかを張って見せる姿は無邪気でかわいいのだが、突っ込みどころが多すぎる。

横で毛づくろいを始めたジンシャーが、けっ、とのどを鳴らした。


「ところであなたは男の子?女の子?」

「む?おらだちは、子どものうちはおのこもおなごもないべさ。大人にならんば、どっちになるかわがんねのよ」

「生態までうなぎかい!」


ちゃんと突っ込んでやるヨンカに、ちょっとだけ偉いなと思う。

脱力のあまり、すでに突っ込む余力のないエセンであった。


「まぁとりあえず、うなちゃんでいっか」

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