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第14曲 魂の旅と泥棒柄

真夜中の首都クープは、ありとあらゆる色の光が瞬き、街全体を覆いつくしている。

箱型車は街中を縦断するように一路、南へ向かっていた。


全開にした窗の外を、雑踏の生み出す様々な音が通り過ぎてゆく。

誰かが誰かに呼びかけ、別の誰か彼かが咲い、歌に楽器に踊り、時に食器がぶつかり、何かが割れ。


ひとつひとつは耳障りかもしれないそれらは、混じり合うことによって人々の営みの全てが凝縮されたような、むしろ心地よい雑音となり耳へ届く。


その心地良さをぶち壊しそうでありながら意外にも溶け込む破壊音が、車載音響機から流れて来ていた。


運転席のシャルリアンテが、おそらく気を利かせたのだろう、先ほどから流しているエセン作曲『魂の旅』である。


ラハーレもエセンのつくる曲のご贔屓さんを自認しているが、それ以上に熱烈に推しているのが、評議会第五席のシャンスであった。


最大の情報網である妹のヨンカからエセンが新たな曲を完成させたと聞くなり、複写譜を送ってくれと云って来たかと思えば、すぐに懇意の楽団へ演奏を依頼し、瞬く間に音源を作り上げていた。


音響機から流れる曲に合わせて、シャルリアンテが口笛で、まるで流れ星が往き交うかのような効果音を鳴らしている。

この即興的共演により、宇宙映画を彷彿とさせるやたらと壮大な交響曲に仕上がってしまっている。


「しまったわ……どうしてシャルリアンテを収録に呼ばなかったのかしら、私!」


助手席でこぶしを握り、心底悔しがるシャンテ。

名前が少しだけ似ているのはあまり関係ないだろうが、音楽的感性が近いようで、このふたり、わりと仲が良い。


シャルリアンテがにやりとして、親指を上げた。


「意外な組み合わせだな……」


後部座席のポランがぼそりと呟く。

それを肩越しに聞いて、エセンが深く頷く。


恋愛的な何かは感じないので、同じ趣味を持つ推し仲間のような関係性なのだろう。


「エセン、(ズボン)姿もいいじゃない?」


肩までの黒髪を翻して、シャンテが助手席から振り向いた。

目的地ではかなり歩くことになるため、女性陣も今日は全員が(ズボン)を着用している。


「でしょ〜?我ながらなかなか似合ってると思うの!」

「その泥棒柄、いったい何処で手に入れたんだ…」


ポランが呆れ貌で額に手を当てた。


エセンが気合を入れて用意した衣装。

襟の立った薄浅葱の襯衣(シャツ)橄欖(オリーブ)色の膝丈(ズボン)、まではいいとして、細い頸に特徴的な柄の手巾を巻いているのが非常に気になるところだ。


深緑の地に白い唐草模様は、東方では泥棒が戦利品を包んで背負ったり、頬被りに使ったりすると云われている曰くつきの意匠である。


同じ手巾を、ラハーレも胸の隠しに堂々と挿している。

二枚組で販売されていたので、エセンがラハーレに請われて一枚譲ったのだ。


「これはね、グレカディオが手に入れてくれたのよ」

「そういう無駄なこだわりには嬉々として労力を割くよなぁ、あいつ」


グレカディオとは幼馴染だというポランは、やれやれと頸を横に振った。

何処ぞの巻貝頭のお嬢さまとは違って、こちらは正真正銘の幼馴染である。


大陸一どころか世界を股にかけて商売をしているグレカディオ。

彼の環星辰(かんせいしん)商会が店舗を置いていない國はない、とまで云われている。


世界中の支店から様々な情報が上がってくるので屈指の事情通でもあるが、その内容にはやや偏りがあり、ホヌラ山の頂上で何故か半裸になって求婚の言葉を叫んだ男がいたらしいとか、誰の役に立つのかよく分からない情報も多い。


同行者が多くなったので、いつもの濃紫の車ではなく、移動手段としてシャルリアンテが自分の愛車『彗星号』を提供していた。

愛称の是非ともかくとして、多少の水たまりや段差をものともせずに越えてゆく、愛すべき働きものの車である。


なお、それぞれの事情により他に何名か、あとから長距離列車で合流予定だ。


ラハーレは腕組みをし、貌は真正面に向けたまま目を閉じて閑かに坐っている。

眠っているわけではなく、何か考えごとをしている時の姿勢だ。


夜景の灯りが、端正な容貌を照らしては通り過ぎてゆく。

ふとその頬に影を落とすまつ毛が震え、すっきりとした瞼の下から緑灰の双眸があらわれた。


「ーーーシャルリアンテも入れて録音し直すべきだろうな」


同乗者全員が、がくっと脱力した。

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