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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
三章

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才色兼備と後輩と学園祭

 同時刻。


「真宵せんぱぁい、お化け屋敷怖かったですぅ」


「嘘もほどほどにすることだ。抱き着くだけ抱き着いておいて、ピクリとも震えていなかったじゃないか」


 三年生が広い特別教室を魔改造したお化け屋敷を後にしつつ、腕に絡みついてくる灯花を引き連れて歩く。


 灯花によって索理たちのグループと分断されてから、私たちは結局二人で学園祭を楽しんでいた。


 灯花と過ごす時間も決して嫌いではないが、正直なことを言えば、索理と一緒に作り上げた学園祭を一緒に見て回りたかったという気持ちはある。


 索理を半強制的に実行委員に立候補させたときは、本当はもっと同じ仕事を一緒にこなしていく様子を想像していた。それこそ索理は演劇部の手伝いをしていたようなので、毎日放課後にそういった作業を共に出来れば、という計画だった。


 ふたを開けて見れば、私は先輩たちによる強い後押しを受けて会計業務に回されることとなった。索理たちには現場仕事がどうこう、と理由をつけて不満をこぼしたが、結局のところ、目算通りにいかなかったことが気に入らなかった部分が大きい。


 索理にも無駄な負担をかけてしまったことになる。こうなるのならば、初めから彼を実行委員に仕立て上げる必要もなかった。


 もちろん、そこで諦める私ではない。この学校の学園祭ではキャンプファイヤーが伝統となっていて、そこで一緒に踊った男女はいずれ結ばれる。そんな伝承の噂を耳にした私は、予算会議で真っ先に俎上にあがっていた削減案に断固として反対した。幸いにして同じ意見を持っている一年生も多く、先輩たちのやんわりとした反対意見を退けるのはそう難しくはなかった。


 夜には一般公開も終わるので、灯花に振り回されることもない。そこに索理を誘うことができたら、その時は──いや、あまり事を急くのはよろしくない。


 索理と出会ってから数か月。世間の学生がおおよそどの程度のタイミングで告白に踏み切るのかは分からないが、肌感覚的にはやや早いようにも思える。それに索理についてはまだまだ知らないことも多いし、索理が知らない私の情報も少なくない。そんな状態で気持ちを伝えたとしても、索理も判断に困ることだろう。


 だからこそ、今は段階を踏むべきだ。まずはキャンプファイヤーの時間を共にしてもっと距離を縮める。


「センパイ、真宵センパイ? もしもーし。考え事でもしてますか?」


 意識を思考から戻せば、灯花がぐいぐいと袖を引いていた。


「……む。すまない。何か言っていたか?」


「もー、次はどこ行きますか、ってお話ですよ。こうして出店を回るのもいいですけど、ステージの方にも興味があるんですよね。食べ歩きできるものでも見繕いながら向かってみませんか?」


「そうだな。ちょうど今の時間からだと……演劇部の舞台があるな。クラスメイトが主役を務めているはずだから、タイミングが合えば観に行きたいと思っていたところだ」


「クラスメイトってことは、まだ一年生なのに主役ですか」


「ああ。本人からも是非観に来てほしいと言われていてな。そうだ、索理たちとも一緒に観劇しようかと話していたんだ。そろそろ合流でも──」


「それはダメです」


 舌を出して露骨に嫌そうな顔をする灯花に苦笑する。たった一度しか顔を合わせていないのに……いや、だからこそだろうか。なまじ第一印象が悪かっただけに、それを払拭する機会もなく引きずっているのかもしれない。


「まぁ、索理たちも同じタイミングで観にきている可能性もあるからな。ひとまずは行ってみるとしようか」


「はい!」


 歩き出した私に抱き着いたままの灯花は、目ぼしい出店を見繕うべく廊下の両側に目を配っている。


 その灯花が、ついさっき索理の名前を出した時よりも、さらに一段階不快感をむき出しにした表情になった。


「うわぁ、あの人……」


 視線の先を見てみれば、小太りでTシャツに汗が滲んだ男性が、スマホを片手にきょろきょろと辺りを見回していた。


「あの男性がどうかしたのか? 誰かを探しているようだが、知り合いか?」


「全然知り合いとかじゃないです。っていうか、普通に気持ち悪くないです? ああいうオッサンが一番苦手なんですよねぇ……脂ぎってるし、見るからに臭そうだし」


「こら、滅多なことを言うものじゃない」


「だってどこからどう見ても女の敵じゃないですか。きっとアレですよ。うら若き女子高生の柔肌を合法的に見られる機会だとしか考えてないタイプです」


「だから言いすぎだと……む」


 男が持つスマホが目に入った。


 正確に言えば、そのスマホに表示されている人物……恐らくは、彼が探しているのであろう人物の姿が。


 見たことがある写真だった。確かあれは夏休みに入るよりも前のこと。藍からまったく同じ写真が送られてきたことが、おぼろげな記憶として蘇ってくる。


 私の目は、スマホの中で拡大された薄桃色の髪をした彼女──否、彼の姿に釘付けになる。頬を汗が伝う感触があった。


 私の知らない索理の知り合いだろうか? ……いや、それならばああして探し回る必要はないだろう。彼と直接連絡を取って待ち合せればいい。


 次に浮かんできた考えは、奇しくもさっき灯花が口にしたのと同じものだった。

 つまりあの小太りの男性は、索理に何かよからぬ感情を抱いている可能性が高い。


 索理が今どこにいるかは分からないが、遭遇する可能性は十分にある。


 灯花にだけ聞こえるように声のボリュームを落としつつ、気づけば私も灯花と同じような視線を男に向けていた。


「あの男……学園祭の場にいるには似つかわしくない。灯花、協力してくれないか」


「もちろんです。うちが今まで、真宵センパイの頼みを断ったことがありましたか?」


 後輩の頼もしい返答に、私は小さく口端を持ち上げた。

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