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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
三章

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女装男子と男装女子

「真宵ちゃん、今来たところだよね……? 学校に来るときはコスプレ禁止って話だったんじゃ……」


「異性用のものだろうが、これも立派な制服だ。第一、索理は毎日女子の制服を着て登校しているではないか。だったら私が男子の制服を着て登校するのも当然、問題ないだろう」


「確かに……」


 これ以上ない理由を挙げられ、索理たちはまとめて反論を引っ込めさせられる。未有はというと、ひとしきり驚いた後で自分の着替えを思い出し、今は席を外している。


 真宵の服装は何の変哲もない制服だが、彼女なりに工夫を凝らしているようだった。


 第一に、トレードマークのようなポニーテールが跡形もなく消えている。普段は被っていないキャップに押し込まれているのだろうが、帽子の縁から毛先だけがぴょこんと顔を出している。まるでショートヘアと誤認させるような絶妙な調整が、男装の説得力を増幅させている。


 元々キリリと整った顔立ちであることも相まってか、男装自体に違和感はない。昨今流行している中性的な雰囲気は、真の性別がどちらであるか、などという些事から意識を逸らすだけの威力があった。


「ほんとに真宵ちゃん、なんだよね……カッコいい」


「そんなに驚かれるとは意外だった。索理が女装ならば私も、というある種短絡的な発想だったのだがな。それに藍も索理もよく似合っている。二人らしい衣装だと思う」


 ふっと微笑む真宵には、普段と同じく一切の隙を思わせない高嶺の花のような雰囲気がある。


 しかし索理は、真宵が身に着けている制服をじっくりと観察し、小さく呟いた。


「……いや、一つ問題があるよ」


「ふむ、どこか着こなしが間違っている、などだろうか。直せる部分ならば、今のうちに教えておいてもらえると助かるのだが」


「その制服だよ!」


 きょとんと首をかしげる真宵の、筋の通った鼻先に指を突きつける。


「それボクのだよねぇ!? いつの間に盗んでいったの!」


「盗んでいったとは心外な言い回しだな。これも巡理さんの部屋にあったうちの一着だ。確かにうちの制服がコスプレ衣装に含まれていることには疑問もあったのだが、ふむ、元は索理のものだったのか」


「元はというか今もボクのなんだけど! 今はほとんど使ってないってだけで! なんでそれが巡理の部屋に……」


「巡理さん曰く、索理にぃが使ってなさそうだからもらっちゃった、ということらしい。てっきり同意済みだと思っていたのだが」


「巡理め……ボクが学校に行ってる間に持ち出してったな……」


 夕木家の方向を恨みがましい目で睨みつけておく。


「それにしても、二人は示し合わせたような衣装だな。似合ってはいるが、なんだか仲間外れにされた気分だ」


「そういうわけじゃないんだけどね。なんか結果的にこうなっちゃっただけで」


「というか、見た目的には真宵のほうがドレスにお似合いな気もするけどね。ほら、うちの男子制服ってネクタイにブレザーだし」


「む、それもそうか」


「ってことは、真宵ちゃんがわたしのお婿さんかぁ」


 藍の口元がにへら、と綻ぶ。そんな藍の手を、真宵が掬い上げるように下から取った。優しさを宿した流し目で。


 その寸前、面白いことを思いついた、とばかりにらんらんと見開かれた真宵の目を、索理は見逃さなかった。


「ベールに隠れているなんてもったいない。その可愛らしい顔をもっとじっくり見せておくれ」


「ふぇ!? ちょ、ちょっと真宵ちゃん!?」


 友人の変貌ぶりに動けずにいる藍。その顔を覆うベールが、真宵の手によって持ち上げられる。


 流れるように後頭部に触れた手が、藍の顔を真宵の手元に引き寄せた──その時だった。


「しゃったーちゃーんす!」


 すさまじい勢いで教室の床をスライディングしてくる影があった。瞬く間に索理たちのテーブルに接近すると、手にしたカメラを覗き込み、宣言通りシャッターを切る。


「はーい完璧ですっ、いきなりとんでもない一枚ゲットしちゃいましたぁ! もう少し顔近づけてみるとさらにいいのが撮れるかと! あ、一枚いります? 予約していただけたら多めに現像してお渡しできますよー!」


「寧ちゃん!?」


「はぁいおはようございますぅ。学園祭専属カメラマンこと寧ちゃんです! いやぁ、朝からおアツいですなぁ。あ、寧的には百合百合しいのも男装女子もウェルカムでございます! むしろご褒美!」


 まだ朝だというのに、どこからともなく湧いて出た寧のテンションは、いつも通り振り切れていた。


「しかしアレですねぇ、女装男子くんと男装女子ちゃんが同居しているこの状況、学園祭ならではといったところでしょうか? あ、ゴスロリ夕木くんももちろんばっちりお似合いですとも。一枚よろしいですか? よろしいですね? パシャー」


「せめて返事をさせて……」


「もちろんですぅ、何枚ご用意しましょうか?」


「寧、少し落ち着いてくれ。索理が完全に置き去りにされて全てを諦めた顔をしている」


「おや、これは失礼。いよいよ学園祭とあって、寧ちゃんとしてもモチベが爆上がりなわけでして。この後もガッツリ撮影させていただきますので!」


 寧がカメラを構え、四方八方にレンズを向ける。その姿は、さながらカメラにおける素振りのようだった。


「あれ、そういえば寧ちゃんはコスプレしてないの?」


 藍の指摘を受けて見てみれば、確かに寧が身に着けているのは普通の制服だ。髪型を変えているわけでもなければ、眼鏡もいつも通り。見るからに素の原村寧の姿がそこにある。


 当の寧はというと、ぽかんと口を開けて佇んでいた。


「あ、忘れてました」


「えぇ……」


 悪びれもしない口調に脱力しそうになる。気合を入れて準備してきたこちらがおかしいみたいだ。


「まぁまぁいいじゃないですか。寧はどちらかというと皆さんのコスを撮影する側ですし。見方によってはカメラマンのコスプレという主張も可能だったりしません?」


「しません……っと、そうだ、いいこと思いついた」


 索理はスマホを取り出すと、姉とのチャット欄を呼び出す。


「どこに連絡してるんです?」


 きょとんとして首をかしげる寧は、高校生としてはかなり小柄な方だ。──そう、ちょうど巡理と同じくらいに。


「今度はボクが原村さんを振り回す番だ」


「え、なんですかその悪い顔。怖い怖いですメイクも相まってダークなお顔すぎるんですけどっ!」


「原村さん、一般入場が始まったらすぐ、教室に集合ね」


「ぎょえー!」


「ちょっと席外してる間に、なんだよ騒々しい……」


 ちょうど戻ってきたギンギラ衣装の未有が、挙動不審な寧を観止めて白い目を向けた。

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