女装と地雷と選んだ衣装
「つーことは、夕木のコスプレは地雷系女子か。あたしには地雷メイク禁止とか言っておいてそれかよ」
「メイクの成長度合い的にもちょうどよかったんだよ! ウィッグも届いたし。それにどうせお披露目するなら、インパクトのあるタイミングがいいじゃない?」
「まぁ、確かに驚かされたのは事実だが。……てかよく見りゃその服、あたしが試着してたゴスロリじゃねーか」
未有の鋭い指摘にぺろりと舌を出す。
本来ならば、化粧に使う粉類が服に落ちるのを防ぐため、着替えはメイクよりも後に行う。だが今回に限っては、慣れないメイクで色合いのミスを起こさないようにすることと、ゴスロリ自体のつくりがぴっちりとしていて、襟から首を出すときに間違いなくメイクが持っていかれるのを防ぐことが目的だ。
モノトーンの配色に全身が覆われる中、顔周りだけに差し込まれた強烈な赤みがアクセントになる。浮き上がるみたいな目立ち方をしている。日本人の平均ににじり寄るためのナチュラルメイクではなく、強烈な個性を発揮するための地雷メイク。
見た目は人が第一印象を感じ取る時、かなり大きな割合を占める要素となる。このメイクが与える印象は大きく二分されることだろう。大半は奇妙なメイクだと嫌悪感を抱く。だが一部のコアな層からは熱烈な支持を受けられるかもしれない。
そして、嫌悪感を抱いてくれる割合は大きければ大きいほどいい。願わくば百パーセント。
もちろんそんなことは、地雷メイクの師匠である未有には口が裂けても言えないけれど。
「つか冷静に考えてみりゃ、夕木家って女装するための環境がかなり整ってんだな。姉の方がメイクとか髪型、妹の方が服。おまけに小さい頃から女に囲まれた生活となりゃ、環境的にはほぼパーフェクトだな」
「だねぇ、お母さんも割と肯定的だし」
「父親もノリノリって感じか。ゆるい家庭だな」
「そういえばお父さんには最近会ってないなぁ。いつもお母さんに監禁されてるか、追いかけられて殺されかけてるから」
「はぁ……?」
未有は空いた口が塞がらないといった様子で、ポカンと間抜けな顔を晒している。けれどそれがうちの日常で、それ以上の説明のしようがない。
またうちに遊びに来ることがあれば、ちゃんと説明する機会もあるかもしれないが……
ぱし、と一度手を叩き、話題を転換しにかかる。
「そういえば黒河さんは何着るんだっけ? 巡理に聞いたけど、結局うちの衣装じゃなくて自前のを着ることにしたみたいだって」
「まーな。わざわざ直してもらうのも気が引けたし……つかあたしのを抜きにしても二着は手直ししなきゃならねーだろ? それなら無駄に作業増やすのも悪いかと思ってな」
「巡理は布触ってる方が何より幸せってタイプだから、喜んでやってくれそうだけどね。それに結局、直すのは一着だけになったみたいだよ? ボクにもサプライズだから、ってことで、詳しいことは教えてもらえなかったけど」
「となると、織部か伊澄も自前で用意したっつーことか。あいつらにもアテとかあったんだな」
言葉を交わしつつ、未有は自身の鞄からどこかのアパレルブランドのロゴが印字された乳白色のビニール袋を引っ張り出した。さらにその中に手を突っ込むと、丸められていた衣装が日の目を浴びた。
「その衣装、見たことある気がする……何かのキャラクターの服?」
「有名なボーカロイドだかの衣装なんだと。あたしがメイク教えてた連中の中に好きなヤツがいるらしくて、教えたお礼にって押し付けられたんだよ。安価品らしいからちょっとつくりはアレだが、学園祭なんてこんなもんでいいだろ」
「ボーカロイドかぁ。そういえば、確か元のキャラってツインテールだよね? 髪型も合わせるの?」
「あたしの長さでツインテにしたら悲惨なことになるからぜってー嫌だ。もうちょい短めなら巻いていい感じになるんだろうが、わざわざ切る気も巻いてる時間もねーよ」
「そっかぁ。でも、いつもと違う格好ってだけでも新鮮だよね。と、そういえば……」
教室内を見回してみる。時計は間もなく八時を回りそうなところだ。そろそろ誰かが登校してきてもいい時間だが、クラスにはまだ索理たちのほかに人影はない。
索理はその事実を妙に思い、首をひねった。
「ねぇ、藍のこと見なかった? 一緒に歩いてたんだけど、藍だけ途中で先に行っちゃっててさ。多分ボクより早く学校来てると思うんだけど、まだ会えてなくて……」
「トイレかどこかで着替えてんじゃねーの? 夕木も準備するために早く登校してたんだろ?」
「にしても遅いなって……相当複雑なのを着てるのか、ボクと同じでメイクまで変えてるとか?」
「さあな。まあ一言言えるとしたら、複雑ではねーかもな。むしろドがつくレベルのシンプルさだ」
未有がいたずらっぽく目を細めて含み笑いをする。
(シンプルな衣装か……だとしたら時間がかかってる理由は……?)
「みんなおはよー! ……ってあれ、まだサクと未有ちゃんだけかぁ」
と、そこで底抜けに明るい声が響く。
「噂をすれば、ってやつだな。しっかり目に焼き付けろよ」
「え? なに、どういうこと?」
含みのある言い草に困惑させられつつ、索理は声の主へと顔を向ける。
そこに、純白が立っていた。
未有の言う通り、シンプルといえばシンプルではある。単色の輝くような白が如何なくその存在感を発揮している。デコルテから肩口までもががばりと開いており、そこを横切る肩紐は存在しない。
自身がそこに留まるために存外カッチリと作られた胸元に対し、くびれの高さからふわりと広がりを見せるドレス部分がより印象づいて見える。
ドレスと同じ白レースの手袋が、小さくまとめられた髪に触れようとする。だが髪に直接触れることはできない。頭にはティアラと、透けながらもそれを覆い隠そうとするベールが乗っているからだ。
つまるところ、一言でいえば、それは──
「……お嫁さん?」




