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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
三章

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女装とクラスメイトとひきこもり妹

『明日、うちでコスプレ衣装見繕わない? いろいろ揃ってるから』


 索理の突貫じみた提案には、間髪入れずに三人からの色よい返事があった。近所に住まいをかまえる藍はともかく、忙しい身である未有や真宵が乗ってきたのは意外だった。


 特に未有は、学園祭用のコスプレに困っている様子はなかった。てっきり自宅にあるものから選び出すのだろうと思っていたので、予想が裏切られる形となった。


(もしかして、最近話せていなかったからボクに会いたかったとか……なんて、さすがに自惚れすぎかな)


 知らないうちにクラスメイトに囲まれるようになっていた未有と、実行委員としての仕事で放課後が埋まってしまっている索理。この一週間、まるで入学当時に戻ったかのように、彼女とは言葉を交わす機会がなかった。


 そんな彼女が今日、うちに来る。


 夏休み中にも一度来てもらったことがあるし、既に気を遣うような間柄でもない。寝起きのすっぴんまで拝まれてしまっている始末だ。


 にもかかわらず、索理は原因不明の妙な緊張感に襲われ、そわそわと玄関の前で歩き回っていた。


 人間関係において、誰かに対して恐怖を覚えることはあれど、こんな気持ちになるのは初めてのことかもしれない。


 その正体に迫るべく、意識を思考に集中させようとしたその直前、耳なじみのあるチャイムが聞こえた。




 まだまだ暑い外に合わせ、各々涼しげな服装で現れた未有たち。彼女たちを背後に引き連れて、索理は二階に上がった。


 目指すは自室の隣にある妹の部屋だ。そのドアの前には、部屋の主がやや前傾した姿勢で待っていた。


「巡理ちゃん!」


 顔なじみである藍が真っ先に声を上げ、索理の横を風を切る勢いで追い抜いていく。


 藍は瞬く間に巡理の背後に回ると、その小さな身体を壊さないように抱きしめる。


「二人とも、こちら、サクの妹の巡理ちゃん。中学二年生だよ。えっとね、趣味は服作りとアニメとゲームで、とっても手先が器用で──」


「……藍さん、あつい……」


 普段に比べ、巡理の声はやや掠れ気味に聞こえる。小さく身を捩るその姿を前に、真宵と未有は虚を突かれたようにぽかんと口を開けていた。


「索理、その、なんだ。妹は妹でも、血が半分しか繋がっていないタイプの……」


「違います。巡理は確かに外国人みたいに色白だけど、れっきとした純日本人だし、ちゃんと血も繋がってるよ」


「アルビノ、ってやつか。話に聞いたことはあるが初めて見る」


 見知らぬ相手を前に、巡理は背後から回された藍の手をぎゅっと握って小さくなっている。


「自己紹介がまだだったか。お兄さんの索理と同じクラスの伊澄真宵だ。藍と同じように下の名前で呼んでくれて構わない。こちらは黒河未有だ」


「どーも」


 巡理は二人の顔を交互に見る。その視線が二往復したところで、囁くような微かな声でぽつりと呟いた。


「……この二人が、藍さんの恋がた──むぐ」


「こぉら巡理ちゃん、いきなり何言ってるのかなぁ!?」


「……もががが」


 巡理の小さな唇が何かを紡ぎ出した瞬間、藍が瞬時に反応して、顎ごとすべてを塞ぎにかかっていた。索理の位置からでは何を呟いたのかよく聞こえなかったけれど、巡理は突然のことにすっかり目を回してしまっている。


「こらこら、あんまいじめてんじゃねー。織部が触ってるとこから折れちまいそーだ」


「そんなに馬鹿力じゃないやい!」


 藍の意識が未有に向いた瞬間、巡理はどうにか拘束から逃れていた。それだけで乱れてしまった息を整えつつ、初対面の二人に対して「……どうも」と小さく頭を下げた。


 自分から改めて名乗るかと思ったのだが、会釈と共にたった三文字の挨拶をしただけで、彼女は口を閉ざしてしまった。仕方なく索理が後を継ぐ。


「と、こんな感じで筋金入りの人見知りなんだけど、仲良くしてあげてほしいな」


「夕木が言えたことじゃねーだろ」


「こら黒河さん、余計なことは言わなくてよろしい」


 未有のツッコミに思わず口を挟む。


 会話が一瞬途切れたところでふと、「そういえば」と未有が声を上げた。


「完全に今更なんだが、あたしたちって微妙に服のサイズとか違うだろ。夕木妹サイズだと、あたしはともかく、織部や伊澄的には問題アリなんじゃねーの」


「その辺は大丈夫みたいだよ。特に最近のは、ボクでも巡理でも着られるような、余裕があるサイズ感で作ってるみたいだし。やろうと思えば裾上げとか調整も効くんだって」


「随分と本格的なのだな。索理の私服なんかも、巡理さんの見立てだと言っていたか」


「作ってもらってるのもあるけど、似合いそうなのを見繕ってくれたりもするからね。外に出られない都合でほとんどは通販になるけど。ほら、この前の浴衣とか」


「この前の浴衣……?」


 途端、藍の目が槍のごとく鋭くなる。巡理を抱きしめる腕にも力が篭り、窮屈になったことを訴えるように、巡理が背後の藍を控えめな視線で見た。


「真宵ちゃん……? この前のプールの時もそんなこと言ってたけど、確かサクも真宵ちゃんも、お祭りには予定があって行けなかったって……もしかして、わたしに隠れてサクとお祭り行ったんじゃ──」


「ど、どんなコスプレがあるか楽しみだ! さあ巡理さん、早速お部屋にお邪魔してしまってもいいかな!」


 真宵はいきなり声のボリュームを大きくして、足早に巡理に近付いてその手を取った。遠慮もなくドアノブを捻って我先にと巡理の部屋に突入していく真宵は、どうみても普段の彼女らしくない。


「……っ、あ、あう……」


 半ば強制的に連れられて行く巡理もこの調子だ。初対面の人間に突然手を握られ、カチコチに固まってしまった身体で、されるがままで手を引かれていく。


「あっ、こら、真宵ちゃん、巡理ちゃんで誤魔化してないで、ちゃんと詳しい話を聞かせてくれないと!」


 その後ろを、頬を膨らませた藍が足音を立てながら追いかけていく。


 あっけにとられたように一連の流れを静観していた未有は、同じく取り残された索理に引きつった笑みを見せる。


「夕木も案外苦労してんだな」


「案外ってなにさ。このところは振り回されっぱなしだよ」


 何気ないやりとりだったけれど、まるで昨日も話していたかのような自然な会話に、思わずにやけてしまいそうになる。索理は持ち上がろうとする口角の動きがバレないよう、ぽりぽりと頬をかくふりをした。

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