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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
二章

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62/65

女装と地雷とナンパ男

 名前も知らない二人組に腕を引かれ、索理たちは混浴温泉の奥へと連れ込まれた。


「まさかこんな美少女二人がフリーで転がってるとはなぁ」


「だな。ツイてるってレベルじゃねーや」


 舌なめずりでも始めそうな彼らの様子は、まるで餌を目の前にした獣のようだ。自分の優位を疑わない、絶対的な捕食側だけが見せる余裕と優越感。自身と同じ種の生き物を見る目ではなかった。


 索理たちが連れてこられたのは、声を上げなければ誰にも気付かれないような物陰だ。完全な死角というわけではないが、索理たちの口は男たちの手によって塞がれており、助けを求めることはできない。


 さらに最悪なことに、さっきまでの騒ぎを耳にして、まばらながら残っていた客たちは全員、そそくさと出て行ってしまった。中には係員などを呼びに行ってくれている人もいるかもしれないが、今のところそういった助けが現れる気配はない。


 索理は両手首を金髪の男の片手にまとめて抑え込まれ、力づくで壁に押し付けられた。その間も索理は呆然としたままで、まるで人形のようにされるがままになっていた。


 対して、未有は一人、必死の抵抗を繰り返している。身を捩り、脚を振り回し、目線で怒りを訴え続ける。


「おい、いい加減大人しくしろって。心配しなくとも、悪いようにはしねぇからさぁ」


 男はその抵抗を苦にもしていなかった。握られた手首を持ち上げられてつま先立ちにさせられ、物理的な威力を持たない視線は、至近距離で受け止められ、嘲りの対象となる。


 体格と力の差はどうしようもなく残酷だ。だがそれでも、下卑た笑みで迫る彼に対し、未有は毅然とした態度を崩さずに反撃を試みた。


「ってぇ!」


 突如、肉体自慢の男が悲鳴と共に、抑え込んでいた未有の口元から慌てて手をどけた。僅かな赤色が宙に舞う。出所である男の指には、並びのいい歯形がくっきりと残っていた。


「ぺっ」


 未有は口の中に残った液体を汚物のように吐き捨てた。その態度を目の当たりにして、噛みつかれた男が激昂する。


 窮鼠猫を噛む。まさにその言葉を体現したような反撃だった。


「ぁにしやがんだテメェ! 俺の指はソーセージじゃねぇんだぞ!」


「ああその通りだ。こんなにマズいソーセージがあってたまるか」


「んだとゴラァ!」


 しかしそれは大勢を揺るがすような一撃ではない。むしろ彼の怒りを煽るだけに終わり、未有の手首を拘束する手により強い力がこめられただけだった。


 感情をむき出しにする彼を、索理を押さえつけているもう一人の男が鼻で笑った。


「おいおい何バカなことやってんだ。そっちに比べてこっちの嬢ちゃんは大人しいぜ? ま、ちょっとばかし胸が足りねぇのが玉に瑕、って感じだが。こいつみたいに暴れずに大人しくしてりゃ、ちゃんと優しくしてやるのによぉ」


 言いながら、口を封じていた金髪の手が索理の顎を伝って下に降りた。水滴が残る首を撫で、小さく浮き出た鎖骨を通過した。その下にはオフショルダーの水着がある。


 一瞬の躊躇すら見せることなく、索理の胸に金髪の手が触れた。言葉とは裏腹に優しさの欠片も感じられない、ゴツゴツとした男らしい手。もったいぶるような素振りもない、一切の遠慮を含んでいない乱雑な手つき。これまでとはわけが違う不快感を与えられ、心神喪失状態の索理は「ん」と小さく声を漏らした。


「へへっ」


 その声をどう解釈したのか、金髪は気をよくしたように鼻の下を伸ばす。


「クソっ……おい夕木、しっかりしろ! 今抵抗しないとヤバいことになるのわかるだろ!」


 未有が自由になった口で呼びかけるが、索理にはやはり反応がない。糸の切れた操り人形のようだった。瞳からも光が消えている。


 金髪の手が水着の中に侵入する。期待に目をらんらんとさせながら、大きめのフリルのその下、インナー部分に指が滑り込む。ごそごそと何かを探すようにまさぐる手は、やがて求めていたものが手に入らないと知り、イラついたように力が込められた。


 水着が首元までめくり上げられる。露わになったそこを見て、男たちは落胆したとばかりに息をついた。


「マジでちっとも胸ねーじゃん。とんだ肩透かしだ」


「ハハ、そっちはハズレだったか。まあこっちのねーちゃんも巨乳ってレベルではねぇんだがよ」


「いやマジで、男かよってくらい真っ平らなんだわ。ここまで来ると逆に希少種まであるだろ。お前も触ってみ?」


「なんでわざわざ真っ平らの胸を触らなきゃなんねぇんだよ」


 そう言いつつ、肉体自慢の男も手を伸ばす。いやらしい手つきで索理の胸元を撫でさすったあとで、彼はつまらなそうに肩を落とした。


「やっぱ顔より巨乳を狙うべきだったんだ。揉めも掴めもしねぇ。こんなの抱いても味気ねぇよ」


「そうかぁ? オレは尻さえ丸けりゃなんでもいいがな」


「夕木!」


 金髪の手が索理の背に回り、背骨を撫でおろす。未有が声を張るが、物理的な阻害もなしに彼の手が止まるはずもなく、腰を通り越した手は臀部に触れる。


「お、ケツは悪くねぇぞ? 肌の吸いつきもいいし。つかぶっちゃけ、こんだけ顔がよけりゃ文句ねぇや。やっぱ女は若いのに限るわなぁ」


「はっ、調子づきやがって。……と、そろそろオレも楽しむとするかね。指に食いついてくれやがった礼に、二度とその威勢のいい声が出せねぇようにしつけてやる」


 未有の胸元にあるフリルを、男の手がこれ見よがしに揺らす。未有の背を脂汗が伝う。鼻先どうしが触れ合いそうな顔の距離で、男は気色の悪い笑いを崩さない。

「クソっ、クソっ!」


 渾身の力で身体を揺する未有。だが、彼我の力の差は絶望的だった。彼にとってはささやかな抵抗を難なく抑え込み、男の手が小さな膨らみに触れる──


「待ってもらおうか」


 ──その寸前、持ち前の柔らかさを最大限に尖らせた声が、一帯に響き渡った。

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