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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
二章

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水着女子たちの集い

 塩素の香りが漂うプールサイド。そこでは三者三様の水着を着た女の子が、索理の合流を待っていた。


 夏休みも中盤を過ぎ、学期が始まるまでの期間をカレンダーを見ながら頭の中で弾くような時節となったある日のこと。索理たちは以前から約束していたプール施設を訪れていた。


 新設されたというだけあって、設備には塗装の欠け一つ見当たらない。更衣室を出たところに建てられた案内看板によると、とりわけ屋外に多くのアミューズメントがあるらしかった。流れるプールにウォータースライダー、疑似的にサーフィンが体験できるスペースまでもが用意されている。室内にも、年中遊べるのが売り文句の広い温水プールや、水着のまま入れる混浴の温泉が作られていて、夏真っ盛りという時期も相まり、施設内はかなりの混みあいを見せていた。


「サク遅いなぁ。着替えに手間取ってるのかな」


 そう呟き、片足体重で立つ藍を、真宵はチラリと横目で見た。正確に言えば、キャミソールにも見える白いセパレートタイプの水着に包まれた、彼女の胸元を。


「……また大きくなったんじゃないか?」


「んなっ」


 藍が反射的に腕で覆い隠したのは、真宵が注目していたよりも少し下だった。結果的に胸を下から抱きかかえるような形になり、同年代の平均を優に上回っていそうな双丘が柔らかく弾む。


 それでなくとも、藍の身体は全体的に女性らしい自然な丸みを帯びている。彼女自身が気にしているほど体型に油断があるわけではない。


 だが藍はその丸みを認めたくない、とでも言うように声を荒らげた。


「ふ、太ってなんかないやい! 少なくとも、四月の身体測定から体重は変わってないし! 確定で!」


「む、すまない。そういうつもりではなかった。だが実際、サイズアップはしているのだろ? この間だって、下着がキツくなってきたと話していたばかりだ」


「まぁ、一応は……ちょっと恥ずかしいけど」


「羨ましい話だ。私ももう少しくらいは成長して欲しいと思っているのだが」


 真宵が自分の身体を悲しげに見下ろした。そこにはスポーツタイプのビキニに包まれた、細いながらも芯を感じる肢体がある。肩口からすらりと伸びる脚まで、一息で理想的な線を引いたようだった。いつもはポニーテールにまとめている髪は、泳ぎやすさを意識して後頭部でまとめられている。


 そして、パステルカラーの花柄が彩るそこは、藍とは対照的になだらかなラインに収まっている。


 渋々と言った様子で自然体に戻った藍は、真宵のそばで膝を折り、仕返しとばかりにそのくびれに顔を近づけた。


「というか、そういう真宵ちゃんこそスタイル抜群、って感じだし。わたしだったら、そんなお腹出したビキニとか着られないよ、自信なくて」


「こ、こら藍、腹をなぞるんじゃない。くすぐったいだろう」


「一緒にいたら比べられちゃいそうで、身体のラインなんか出せないよう。というかどうやったら、こんなモデルさんみたいな縦型のおへそになるんだろう……腹筋かな? わたしに足りないのは腹筋なのかな?」


「普段から部活で身体を動かしているから、筋肉はついている方かもしれない。代わりに胸に脂肪が回らなかったのだが……」


「贅沢すぎるお悩みだなぁ」


「それはお互い様だろう」


 二人は互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。


 かと思えば、タイミングを計ったように、その視線はもう一人に集まる。


「それで、問題は未有ちゃんだよ」


「ああ、その通りだ」


 妬みのこもった四つの目が未有を射抜く。


「んだよ、文句があるならさっさと言ったらどうだ」


「えーえー、じゃあ言わせてもらいますけどねぇ……」


 水場ということでスマホを手放さざるを得ず、なにやらそわそわとしながら、藍と真宵のやり取りを白い目で見ていた未有。そんな彼女に、藍はあれこれと文句をつけ始めた。


「まず、その髪型!」


「いつものハーフツインだが」


「そんな髪の毛で泳げるわけないでしょ! 髪の長い方はまとめてからお入りください、って注意事項に書いてあったよ!」


 賛同するように、真宵も続く。


「その水着も、確かに可愛らしいデザインではあるが、泳ぐのに向いているとは言えないんじゃないか?」


「余計なお世話だろ……夕木が可愛いからこれ着てこい、って頑なだったんだよ」


 気怠そうに柱に体重を預ける未有が着ているのは、以前SNSに水着写真を投稿したときに着ていたのと同じ水着だ。黒ベースのビキニには胸元が描く曲線に合わせ、強めのピンク色をしたフリルが縫い付けられている。その中心で結ばれているリボンもピンク色。さらには透け感のある白いミニスカートを重ね着していて、その奥にうっすらと見える黒とピンクの水玉柄の布に、強烈な背徳感を与える効果を発揮している。総じて、彼女らしい地雷系要素を散りばめたスタイルにまとまっていた。


「極めつけは、そのお化粧だよっ!」


 藍は未有の鼻先に触れる勢いで人差し指を向ける。


「水に入ったら落ちちゃうし、プールの水に混ざって他の人に迷惑、ってとこまで加味して、わたしたちはすっぴんで来てるのに……一人だけいつも通りじゃん!」


「夏の初めにも話したろ。ウォータープルーフつって、汗とか水に強いタイプを使ってんだよ。厚塗りすると逆に落ちやすいからいつもより薄めだし、あの時とは違って、密着感を意識して粉ファンデにしてるけどな」


「ほう、そんなテクニックもあるのか……」


「こらこら、真宵ちゃんも納得しない。たとえお化粧が水に強いんだとしても、その恰好じゃ水に入る気ないって宣言してるようなものだよ! そんなヒラヒラしたの、確定で泳ぎにくいでしょ!」


「プールに来たからって水に入って泳がなきゃいけないって決まりはないだろ。あたしはこのまま中の温泉にでも入っとく。外は日差しが強そうだしな」


「えー、せっかく一緒に来たんだから遊ぼうよ! 水に入らなくても、ビーチボールの貸し出しとかあるみたいだし!」


「織部はあたしに文句が言いたいのか遊びたいのかどっちなんだよ……」


「一緒に遊びたいから文句言ってるの!」


 ぷっくりと頬を膨らませる藍と、悠然と対応してみせる未有。


「……索理はまだだろうか」


 片時も途切れない二人の応酬を傍目に、真宵はなかなか現れないもう一人の連れの姿を探していた。

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