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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
二章

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女装男子の化けの皮

「この人、なんで男なのに女の子の恰好をしているんです? 変態だからですか? どういう趣味してるんです?」


 毅然と告げられたその言葉に、カマをかけようとする意図は感じられない。


 数瞬の沈黙の後、索理が撮った行動は、真宵の至近距離に近付いて喚き立てることだった。


「ま、真宵! 今日のメイクどこか変だったかな!? もっとコンシーラー頑張ったほうがよかった!? 声ガサガサな時あった!? それとも浴衣がはだけちゃってたとか!?」


「お、落ち着け索理! いつも通りどこにも問題はない、いつもの索理だ!」


「だったらどうして……!」


「簡単なことです」


 慌てふためく索理に対し、灯花はあくまで冷酷に告げる。


「一番はじめに気付いたのはその喉仏です。その違和感に気付いてからは、体格などにも目を向けていました。浴衣は身体のラインがよく出ます。どう見ても女性の身体ではありません。それから、真宵センパイがこの人を扱う態度もそうです。気の置けない友人にしては、妙に距離を取っているというか。同性なら詰めてもよさそうな隙間が、常に二人の間にあいていました」


「……」


「とんだ化けの皮でしたね。ぱっと見は確かにかわいらしいと思います。でもそういった部分に気付く前から、うちは違和感を持ってました。だって、うちの食指がぴくりとも動きませんでしたから」


「なるほどね……」


「さ、索理……」


「大丈夫だよ真宵」


 冷や汗を伝わせる真宵に、心配は無用だと明るく声をかける。


 となるとさっきの追及にも納得がいく。女装だと気づかれていたからこそ、索理が真宵を守るべきだとか、そういう話が出てきたのだろう。


 見抜かれた直後は動揺してしまったが、灯花にはちゃんとしたロジックがあって悟られてしまったということだ。それは彼女のようにつぶさに観察していなければ分からないような違和感ばかりで、索理の準備に非があったわけではない。


 それに男だとバレたことは、索理にとって大きな問題ではない。


「ボクは男だってバレたくないわけじゃないから。だってほら、学校でも公言してるじゃない? いきなり見抜かれたのはびっくりしたけど、それだけ」


「そ、そうか……?」


「うん。みんな知ってることだし、あえて隠してたわけでもないからね。言う必要もないかなって思ってただけで」


「ただの強がり、ってわけでもなさそうですね」


 腕を組む灯花は、秘密を探り当てたことに得意げな様子を見せることもなく、あくまで強気だ。


「それで、そろそろうちの質問に答えてもらってもいいですか? 往来をそんな恰好で闊歩して、あなたは変態なんですか?」


「そういうわけじゃないよ。これがボクのお祭りスタイルってだけ」


「ですか。……真宵センパイ? この人、普段から女の子の恰好をしてるんですか? 学校でも?」


「あ、ああ。制服は私や他の女子生徒と同じものを着用している。だが校則違反ではないぞ。自由な校風だし、世間的にもそういう風潮があるからな」


「そういう流れがあるのは理解します。簡単には解決できない、複雑な問題であることも。うちも全くの無関係、というわけではありませんし。それはそれとして」


 灯花は一度目を閉じると、改めて索理を真正面から見た。


「となると、あなたはそういう性自認を抱えている男性、ということですか。ありていに言えば──あなた、女の子になりたいんですか?」


「灯花! 今日が初対面の相手だろう!」


 真宵の叱責が飛ぶ。だが今度の灯花は止まらない。


「真宵センパイ、今は真剣な話をしているんです。いくら真宵センパイでも、邪魔されるわけにはいきません」


「いいや、私は言ったはずだ。索理は大事な友人だと。目の前で彼を傷つけるような真似をされて、黙っているわけにはいかない」


「真宵センパイはうちよりも、そこの女装男の味方をするっていうんです?」


「それは違う。二人はどちらも大切な友人と後輩だ。私はただ、そんなふうに争ってほしくないだけだ。灯花ばかりに言っているように見えるのは、灯花が索理を攻撃するようなことばかり口にするからだろう」


 真宵の言い分は真っ当なもので、灯花はぐぬぬと声を漏らし、一歩引き下がった。


「で、でも! 真宵センパイだってこんなのおかしいと思いませんか!? かわいいとかかわいくないとか、それ以前の問題ですよ!」


「私はそれを含めて、索理を友人だと言っている。それにさっきも言った通り、校則に違反しているわけでもない。となれば、個人の趣味の範囲だろう。他人に迷惑をかけているわけでもないし、私が咎める理由はない」


「うちが迷惑しています!」


「灯花の言い分は理不尽だ」


 真宵は灯花の叫びをきっぱりと突っぱねる。


「どうしてそんなに頑なに……っ、この男ですね!」


 何度も向けられた敵意のこもった目。その中でも最大の侮蔑を孕んだ視線が、索理を射抜いた。


「真宵センパイはこの男に狂わされたんですね!? 夕木索理さん……でしたよね。真宵センパイと何があったのかは知りませんが、うちはあなたのこと、絶対に認めませんから。今に見ていてください、うちも来年、真宵センパイと同じ高校に合格したら、必ずあなたの居場所を奪ってやります。真宵センパイの隣はうちのものですから!」


「隣って……ボクはそんなつもりじゃ」


「問答無用です! ……真宵センパイ、そういうことなので、今日はこれで失礼します」


「もう帰るのか? 確かこれから花火があがる段取りだったと思うが」


「帰って勉強しないといけないので!」


 灯花は最後に索理をひと睨みすると、人の流れをかき分けるようにして走って行ってしまった。


 真宵は追いかけたそうに手を伸ばすが、慣れない下駄で追いつけるはずもない。その背中が雑踏に消えていくのを、もの悲しそうに見つめていた。

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