後輩は才色兼備に恋してる
「灯花は誰かと来ていたわけではないのか?」
「いえ、友達といましたよ? でも真宵センパイのこと見つけちゃったんで、声かけて抜けてきちゃいました」
祭りを練り歩く人波に紛れて歩いている時も、灯花は真宵の右隣を離れない。常に人の流れや動きに気を配り、正面から体格のいい男性がやってきたときなどは、自ら間に割って入って真宵との接触を防いでいる。
索理はその様子を見て、ついこの間藍や未有とした、中世ヨーロッパの男女の立ち位置とピアスの関係性を思い出していた。
(青山さんは、真宵のことが好きなのかな……? 先輩後輩や友達としてじゃなく、その、恋愛的な意味で……?)
さりげなく彼女の左耳──確か女性の同性愛者がピアスをつけるのは左だったはずだ──を覗き込んでみるが、そこにはピアスどころか、ピアスホールすら存在しない。生まれたままの小さな耳たぶがあるだけだ。
灯花からは、真宵に気付かれない程度に出した小さな舌が、覗き見の返答として返ってきた。
愛の形に偏見がある索理ではない。だが、実際のところはどうなのか、思春期の本能が真実を知りたいと喚き立てる。
(まぁ、そういう趣味の人がみんな、そうやってこっそり表明しているわけじゃないよね)
中学生であれば、校則や親の方針に縛られることもあるだろう。さっきの真宵の様子を見るに、彼女は灯花の礼節などに関してかなり厳しく見ているようだった。仲がいいからこその指摘なのだろうが、灯花もわざわざ、心に決めた相手から厳しい言葉を浴びせられようとは思うまい。
それに、灯花は真宵だけを特別慕っているように見えた。であれば、不特定多数に自分の内面をアピールするためのシンパを利用する必要はない。むしろ逆効果とまで言えるだろう。
だがこの状況に限っては、索理の心の中に小さなもやつきを残す原因となりそうだった。
「すまないな、こういう形になる予定ではなかったんだが」
ついさっきの灯花による口撃もあり、やや気まずい状況であることを察してか、真宵がまたも謝ってくる。
「ううん、全然大丈夫だよ。というか、ボクの方が邪魔者かな?」
「そんなことはない」
「その通りです」
二つの声が重なる。
「灯花、いい加減にしないか。索理は私の大切な友人なのだぞ」
「お祭りだなんて年に一度のイベントに二人きりで出かける相手が、ただの友人の枠に収まるんですかねぇ?」
真宵を盾にするようにして向けられる、捻じ曲げたような灯花の声。
「二人きり……そういえば最初は、お祭りは藍や未有とも一緒に行こうって言ってたんだよね」
そう、夏休み前に立てた計画では、ここには真宵だけでなく、藍や未有もいるはずだった。
四人で浴衣の写真を撮ろう、などと話していたのだが、数日前に真宵の方から連絡があったのだ。
「二人とも予定が入っちゃったとかで、急に来られなくなっちゃったんだよねぇ。ちょっと残念だったな」
「う゛」
「?」
何の気なしに呟いた言葉に、何故か真宵が首を絞められたような反応をした。
「どうしたの? 喉でも詰まらせた? そこに飲み物の屋台があるよ」
「い、いや……なんでもない。大丈夫だ、気にするな」
「そう?」
爪楊枝に突き刺したたこ焼きをぶんぶんと振り回し、はぐらかそうとする真宵。
(そういえば、ボクの連絡先は二人とも知っているはずだし、グループチャットもあるからそこで教えてくれたらよかったと思うんだけど……どうして真宵経由で連絡が来たんだろ?)
「お、おお索理、向こうにラーメンの屋台があるぞ! 祭りにラーメンとは珍しいな!」
「え? ラーメン? 食べたい、どこどこ?」
真宵が示す先は、人混みが激しく見通すことができない。慣れない下駄でつま先立ちすることもできず、索理は完全にラーメンの口になってしまったのに、それを持て余すことになった。
「……この間索理を二人占めしたのだから、私だって一日くらいもらってもいいではないか。そうだ、これは平等、公平を維持するために必要だっただけだ。大義もなく騙したわけではない」
「真宵センパイ……?」
反応したのは、片時も真宵のそばを離れないよう、その腕を抱き込んでいる灯花だけだ。ラーメンに意識を釘づけにされ、屋台の前にできた列に並ぶ索理は、小さな呟きに気付かない。
灯花は腑に落ちたというように、じっとりとした目を真宵に向けた。
「ふーん、そういうことですか。じゃあやっぱり、うちがあの人を警戒していたのは、間違っていなかったわけですね」
「ど、どういう意味だ」
「言葉通りの意味ですよーだ。センパイ、いくらなんでも連絡が少なすぎると思ったら、あんな人に首ったけになっていたなんて……」
「首ったけ……い、いや違うぞ。索理はあくまで友人だ。灯花が思っているような関係ではない」
「でも好きなんですよね」
「そ、それは……」
煮え切らない真宵。灯花は次の言葉をせびるように、より強く真宵の腕に抱き着いた。
「か、仮にそうだったとして、灯花には関係のないことだろう?」
「そんなわけないじゃないですか! うちはセンパイの全てに関係があります!」
「何をそんなに意固地になっているんだ……」
「意固地にもなりますよ。だって、うちだって先輩のこと──」
「ただいまー」
「チッ!」
索理が湯気を上げるラーメンを受け取って戻ってくると、それを灯花が舌打ちで迎えた。
「……ボク何かしたっけ?」
「いいや、索理は何も。灯花、さっきから何をそんなにいじけているんだ」
「別に、いじけてなんかないですよセンパイ。タイミングが悪いなって思っただけです」
でも、と灯花は言葉を継ぐ。
「そうですね……言っておきたいことはあります。うちがこの人を気に入らないと思う、一番の理由です」
灯花はまたしても、索理に対して敵意を満載にした瞳で、指を突きつけてくる。
さっきまでと同じように、苦笑いで受け流しておけばいい──そう考えていた索理は、彼女の次の言葉に凍りつかされることになった。
「この人、なんで男なのに女の子の恰好をしているんです? 変態だからですか? どういう趣味してるんです?」




