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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
二章

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才色兼備とひとつ下の後輩

「やっぱり真宵センパイだ! うちのこと覚えてますか? お久しぶりです、卒業式以来ですね!」


「ああ、そうだな」


 見るからに快活そうな少女は、真宵の周りをひょこひょこと舞い踊るように飛び回っては、手を握ったり、頬をつついたりと好き放題だ。


 対する真宵だが、場合によっては鬱陶しさすら感じてしまいそうな彼女の所業に、若干の苦笑いを浮かべてはいる。けれども明確な拒絶をすることはなく、されるがままになっている。


「たまにしか連絡くれないから、心配してたんですよ? 高校で上手くやっていけてないのかな、勉強難しいのかな、でもあの真宵センパイに限って……とか、いろいろと考えちゃって」


「済まなかったな。高校生活は不満がないほど充実しているよ。むしろ充実しすぎて、灯花への連絡が疎かになってしまった。申し訳ない」


「そんなそんな、センパイが謝る必要なんて! 便りがないのは元気な証拠、とも言いますし。お顔を見るに、言葉通りそうで安心しました。というか、前よりもお綺麗になりましたか? なんだか大人びて見える気がします」


「祭りのために少々めかしこんでいるだけだ。そんなに褒めても何も出ないぞ」


「またまたぁ!」


 親しげに言葉を交わす二人。灯花、と呼ばれた少女に見覚えがなかったので、索理は素直に尋ねた。


「えっと、真宵、この子は?」


「ああ、済まない。私の後輩で、青山灯花(あおやま とうか)という。同じ部活に所属していたのと、小学校の頃からお互い知っていたこともあって、学年が離れている割に関わりがあったんだ」


「そうなんだ。こんばんは、青山さん。真宵の同級生で、夕木索理っていいます」

 よろしくね、と手を差し出すが、それを見た灯花は真宵へのフレンドリーな様子を一変させ、牙を剥いて唸る犬のような態度になった。


 何か粗相をしただろうか、と索理が困惑していると、灯花は索理への警戒を解かないまま、トーンの落ちた声でぼそりと呟く。


「……どなたですか真宵センパイ」


「索理が言っていただろう。高校のクラスメイトで、新しくできた友人だ」


「……友人?」


「そうだが」


「友人と出かけるのに、そんなにおめかししたんですか? 浴衣も新調して?」


「せっかくのお祭りなのだからこれくらいはいいだろう。それに、前に灯花とこの祭りに来たのは四年も前のことだ。身体も大きくなったし、あの頃の浴衣は流石に着られないよ」


「それはそうなんでしょうけど……」


 灯花は不満げに口を尖らせ、索理にジロジロと不躾な視線をぶつけた。


「……かわいいですね。浴衣もよくお似合いです」


「あ、ありがとう……?」


「でも、ダメだと思います」


「……?」


 灯花が、身体の各所に対し、順々に指先を向ける。


「その浴衣、袖が長すぎます。横を歩いている真宵センパイにいちいち当たって不快な思いをさせるでしょう。お化粧もファンデーションが白すぎます。外部活で日焼けに気を遣っている真宵センパイに対する当てつけですか? それにその下駄、万が一真宵センパイが転んだりしたらどうするつもりですか? 咄嗟に助けてあげることもできませんし、靴擦れしたり鼻緒が切れてしまうこともあるでしょう。そうなったら真宵センパイに迷惑です。そういった事態を想定するべきではないですか?」


「え、えっと……」


「両手も食べ物で埋まっちゃってますし。そんなんじゃ、真宵センパイが軟派な男に連れて行かれそうになったとき、咄嗟に引き留めることもできません。真宵センパイの隣を歩くということがどういうことか、本当に分かっているんですか?」


「こら灯花、初対面でなんてことを言う。すぐに撤回して謝罪しろ」


「いやですっ。だってこの人、全然真宵センパイのこと守ってあげるって意識がないです。こんな人混みでは、真宵センパイみたいな美人は男の人に狙われてしまうことも十分あり得ます。それなのに自分だけ目いっぱい楽しもう、みたいな恰好で! うちだったら絶対、そんなことしないのに……!」


「それを言うなら私だって浴衣に下駄だ。それに何を勘違いしている。索理と私は対等な立場だ。転んだ拍子に助けられないのは私も同じだ」


「真宵センパイはいいんですっ」


 真宵のことは慕っている様子だったが、その真宵の言葉にも灯花は取り合わず、索理に対する視線は鋭くなるばかりだ。


 その様子を見て、真宵は軽く息を吐いた。そして灯花ではなく索理の方を向き、肩の力を抜いた。


「灯花が謝らないというなら、私が謝ろう。すまない索理、灯花も悪い子ではないんだが、少々嫉妬深いところがある」


 真宵は律儀に腰を折った。きっちりと下げられる頭は四十五度。


「そ、そんな、どうして真宵センパイが……!」


「私の後輩が無礼をはたらいたのだから、私にも謝罪する理由はあるだろう」


「無礼をはたらいているのは向こうです!」


「灯花!」


 ついに眉を吊り上げた真宵が一喝する。その剣幕に、灯花はおずおずと索理に身体を向けた。会釈程度に、頭を前方に揺らす。


「……初対面で失礼なことを言いました。謝罪します」


「う、ううん、気にしてないから……」


「いいや、よくない。いつも言ってるだろう、『悪かった』や『謝罪する』など、婉曲的に謝るのをやめろ。あと、頭を下げるならちゃんと下げるんだ」


「うぐ……」


 灯花は苦虫を噛み潰したような顔で屈辱に耐える様子を見せながらも、やがて先ほどの真宵と同じ角度まで頭を下げた。


「……失礼なことを言って申し訳ありませんでした」


「うむ、それでいい。索理も水に流してやってくれ。灯花も久しぶりの再会で空回りしてしまったのだろう」


「う、うん。ボクは別に、気にしてないから大丈夫だよ。顔上げてよ」


 かなり散々なことを言われた気がするが、勢いが有り余りすぎて逆に、索理の耳を右から左に通り抜けて行ってしまった気がする。


 謝罪こそしたものの、灯花の索理に対する警戒はかえって強まっているようにも思える。それを証明するように、灯花は真宵の右隣を陣取って離れようとしない。


 どうしていいのか分からず、索理は夜風に冷まされてしまったケバブにかぶりついた。

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