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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
二章

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38/65

女装と地雷と小遣い稼ぎ

 藍が走り去ってから、部屋に残された索理と未有。


 一つ屋根の下、二人が水入らずの状況となって、することと言えば一つ。


 互いの顔が、まつ毛が、頬が、接触してしまうのではないかというほどに接近し……


「……うーん、眉はこんな感じでどうかな?」


「お、なかなかいいんじゃねーか? 左右のバランスもいい感じだ。ただ、その下のアイシャドウはちょっと濃すぎるかもな。夕木の場合、あんまり影を強めすぎると、男特有の彫りの深さが出ちまう。そのまま写真とかに映ると目が窪んでるように見えんだよ」


「あー、鞠理ねーちゃんもたまに言ってるかも。女装はアイシャドウ濃くしすぎたらクオリティ下がるよ、って」


 ……二人は一つの小ぶりなスタンドミラーの前に肩を寄せ、メイク談義に花を咲かせていた。


「総合すると、ボクはもう一段階くらい明るいアイシャドウを使ったほうがいいのかな。それか、色の系統を肌に寄せてみるとか? でも、夏休みにいろいろ遊びに行くことを考えると、新しいのを買う余裕が……」


「なんだ夕木、金欠なのか」


「今まったく手元にない、ってわけではないけどね。でもお小遣いはまだ先だし……」


 索理がおサイフ事情にうんうんと頭を悩ませていると、その様子を見ていた未有がぽん、と手を打った。


「だったら、手っ取り早く稼げるいい方法があるんだが」


「言い方がとんでもなく怪しいんだけど。もしかして詐欺師の方ですか?」


「ちげーって。なんにしても、まずはメイクを完成させねーと。話はそれからだ」


「?」


 索理の疑問符にも構わず、未有は仕上げのコンシーラーを差し出してくるのだった。




「……それで、このセットは何?」


「何って、生配信用のセットだが」


 索理が自分の顔と向き合っている間に、未有は隣で何やら準備をしていた。


 鞄から何かを引っ張り出したり、スマホとにらめっこして角度を調整していたり、やたらと窓から入ってくる光の角度を気にしていたり。


 その全てが集約された結果、索理の部屋にある背の低いテーブルは、未有によって急造の配信仕様に改造されていた。


 まぁ、そこまではいい。メイク中に完成するくらいの設備なのだから、片付けるのにもそんなに時間はかからないだろう。問題はそこではない。


「一応聞いていいかな。誰が生配信するの?」


「あたしと夕木」


「今から?」


「今から」


 当たり前のように真顔で告げる未有。そんな未有に対し、索理が思うことはたった一つだ。


「……どうしてこうなった?」


「お前が金稼ぎたいって言ったから」


「稼ぎたいとは言ってないよ! コスメに回すお金がないってだけで!」


「だから、コスメ代稼がせてやるから配信付き合えっつってんだよ。つか実際、そのうち出演してもらうつもりだったんだよな。お前とのツーショ上げてから、一緒に配信はやらねーのかってコメントがたくさんついてんだよ。なに、ちょっと顔出して喋るだけだ、何も難しいことはねーよ」


「難しいことありまくりです。藍じゃないけど、それこそ心の準備ができてなさすぎるよ……」


 未有が配信をするとなれば、アカウントはフォロワー五桁規模の『まいんちゃん@はたらきたくない』名義になるのだろう。平日の昼間とはいえ、視聴者の数が数十人程度で済まないことは明白だ。まして、未有のフォロワーには索理たちと同じ学生も多い。夏休み期間ということで、時間を持て余している人も少なくない可能性がある。


「そんな、いきなり大人数の前に出て話すとか……教室でさえできないのに」


「教室とは違うだろ。目の前に相手がいるわけじゃねーし。大体、配信に来るのはあたしの話を聞きてーやつが大半だ。たまに変なのもいるが、基本的には好意的なやつばっかだよ」


「もしコメントに攻撃的なのがいたら?」


「こっちは口、あっちはキーボードだぞ。思いつくままにまくしたてりゃ、基本的にレスバで負けることはねーよ。それにほとんどの視聴者はあたしの信者だ。浮いてるやかましいやつは勝手に通報入ってキックされてく。最悪、配信自体をブチ切れば勝ち逃げだ」


「うわぁ、めちゃくちゃ炎上しそう……」


 まだ見ぬ悪意をまとうコメントに、索理は早くも自分の肩を抱いてぶるりと震えた。


「……というか、メイクだけじゃなく配信にも詳しいんだね。普段からやってるの?」


「まーな。つか、あたしのメイン収入源だ。夏休み期間はまとまった時間が取れるし、書き入れ時なんだよ」


「そんなバイト感覚で……」


「好きな時間にできるし、家から出なくてもいい。視聴者数っつー元手さえありゃ、バイトよりよっぽど気楽なもんだ」


 索理の挙げる問題点を、未有はまるでなんでもないことのように片付けていく。


 だが、それでも索理は食い下がる。


「そもそもここ、ボクの部屋だし! いつもは自室なんでしょ? 男の部屋に入ってるなんて知れたら、それこそネットニュースになりかねないよ!」


「その辺は問題ない。カーテンの色をクロマキーにして別の背景乗っけるから、画角さえいじらなきゃ場所がどこか特定される心配はないだろ」


「くろまきー……?」


「『ガチャピン 天気予報』で検索しとけ」


 未有は面倒くさそうに大きなあくびをして、説明責任を放棄した。


「唯一の懸念点があるとしたら、配信内で夕木の女装がバレる可能性くらいか? 写真では誤魔化せてた部分のボロが出る、なんてよく聞く話だ。だがまー、お前の場合は仕草とか声までほぼ完璧に女だし、そんな心配もないだろ。あるとすれば、お前のウィッグがどこかに引っ掛かって外れるくらいか」


「そ、そんなミスしないよ!」


「だったら余裕だ。ほら、サクっとやっちまおう」


「本当に大丈夫かな……」


 索理の不安を置きざりにしたまま、未有はスマホスタンドに自分のスマホをセットすると、いつの間にか準備していた配信画面の開始ボタンを押した。

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