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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
二章

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34/65

地雷と幼馴染とエロ本大捜索

 鞠理がドタバタと飛び出していった夕木家に残されたのは、索理と二人の訪問者、合わせて三人ということになった。


 無論、集まった理由はメイク講座である。未有に教わる時間を確保するために、索理は学校での睡眠時間を返上してのフラッシュ記憶ゲームに果敢にも挑戦し、無事勝利を収めたのだから。


 しかし、今まで藍と真宵以外に友人ができたことがなかった索理だ。部屋に二人以外の人を上げるのも、当然初めてということになる。


 経験不足ゆえの読みの甘さが出たと言うべきか、事前に年頃の女子の習性を知っておくべきだったと言うべきか。


「しゃー織部、あたしは引き出しの二重底をぶち抜く。ベッドの下は任せたからな」

「お、おー! なんかよくわからないけどまだ見ぬお宝が眠っている気がする!」

「かかれー!」


 索理の部屋に入った二人が始めたのは、上を下への大捜索だった。索理が止める間もなく、家宅捜索は始まってしまっている。


「……あの、ちなみに何を探しておられるので?」

「ん? エロ本」

「エロ本!?」


 未有の口から全く脈絡のない単語が放たれ、索理は危うく尻もちを尽きそうになった。


「一応聞きたいんだけど、メイク講座は……?」

「そろそろ自分の手を動かしてもいー頃だろ。完成したら見せてみ、無限にダメ出ししてやる」


「とんでもなく雑にぶん投げられた!? あんなにテスト頑張ったのに!」

「ぶっちゃけ夕木の部屋に入ることが決まってから、エロ本のことしか頭になかった」

「本当にどうして!?」


 それじゃまるで、メイク講座は口実で、この部屋を漁って索理の秘密を探りたかっただけみたいじゃないか。


 索理が愕然としている間にも、捜索の手は止まらない。


「あの、二重底とかないし、ベッドの下は埃だらけだろうからあんまり手突っ込まない方が……」


 第一、索理の部屋には彼女らが求めている類のものは一切存在しない。索理のプライベートに何を期待しているのか知らないが、どこをどれだけ探られようと、痛くもない腹が痛むことはない。


 未有たちは押し入れや本棚の奥までをひっくり返し、果ては漫画本一冊一冊の表紙を剥いで中身を確かめ始めたので、「後で自分たちで元に戻してよね」と釘を差しておいた。


「はぁ……はぁ……なんでどこにも見当たらねーんだ……この年の男の部屋になきゃいけないはずのモノがねぇ……」

「ごめん未有ちゃん、わたしの力不足だよ……」


「いや、普通に一冊も持ってないだけだから。クラスの男子と一緒にしないでよ、そんなやましいもの触れたこともないよ」


 がっくりと肩を落とす二人。大地震が起きてもこんな散らかり方はしない、というレベルの荒れ具合を前に、索理は休む間も与えずに片付けを命じた。


「来た時よりも美しく!」

「青少年自然の家かよ。……つか、逆にどうやったら、その年の男でエロ本に無関心でいられるんだよ」


「ボクの興味は今、女装と地雷メイクに全振りだからね。ぶっぱしてるからね」

「クソっ、夕木の男っぽい一面が見られると思ったのに……」

「そういう目的だったわけね……」


 事あるごとに索理を本当の女の子だと勘違いしていた未有のことだ。ここで証拠の一つでも掴んで、信じるに足る根拠を手に入れたかったのだろう。確たる証拠を入手するだとか理由をつけて直接下半身に突撃されるよりは、まだマシな方向に話が進んでいたのかもしれない。


 だってよぉ、と未有は口の端を曲げて文句を垂れる。


「このままだとあたし、本気でお前のこと、女としか認識できなくなるかもしれねーぞ。見た目も女、声も女、そんで中身まで女だったら、もう普通の女より女だろ。女々しい超えて姦しい」


「漢字だと女が増えてるように見えるけど、やかましいって言われてるだけだよねそれ……ねぇ、藍からも何か言ってよ。藍は昔のボクも知ってるじゃん」

「もちろん知ってるけど……」


 藍が漫画本を元の形に戻す手を止め、索理の顔を至近距離で観察してくる。


「サク、一応確認するけど、まったくのノーメイクでそれなんだよね?」

「一応下地だけはやってあるけど、ほぼすっぴんって言ってもいいかも」


「はぁ……」

「な、なんですかそのため息は」


 索理が控えめに尋ねれば、藍の眉が吊り上がると共に、索理の頬を両手で包み込んだ。


「えっと……藍、さん?」

「ほっぺはもちもち、鼻もおでこも毛穴とか一切見えない……ダメだ、確定で負けた……」


 かと思えば、一昔前に使われていた顔文字のように、お手本のような四つん這いで絶望を体現する藍。心なしか、声には力がない。


「まあ、肌のケアとかは鞠理ねーちゃんに教わってるし。あとは、学校でもらった試供品だって言って、たまによさげなパックとかおすそ分けしてくれるんだよね。一つのパウチに一枚しか入ってなくて、美容成分ひったひたのやつ。鞠理ねーちゃんはああ見えて肌弱めだから、合わないパック使うと荒れちゃうんだって」


「心強い味方すぎる……わたしも肌ケアだけでも教えてもらおうかなぁ」

「すっぴん晒したら相性がいい化粧水とかも見つけてくれるし、一回相談してみたらいいかもね」


「ふぇぇ神すぎる……鞠理さん早く帰ってきてぇ……」

「というか、藍にはボクが男であることを証明してもらいたかったんだけど……」


「屈辱的だからいやだ」

「どうしてだろ、ホームグラウンドのはずなのに全然思い通りに話が進まない」


 そんなやりとりをしていたら、もう未有たちがやってきてから一時間が経過しようとしていた。


 部屋はまだまだ、彼女たちが来た時よりも美しくなりそうにない。索理は仕方なく、散らかる部屋の中にスペースを確保し、メイク道具のセットを取り出すのだった。

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