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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
二章

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32/65

女装男子と夏休みの計画

「それで、夏休みの予定はどうする? 高校入って初めての夏休みだし、今年は全力で遊んじゃお!」


 そう声を上げる藍の手にはスマホが握られている。そこに映っているのは、市内に新しくできたという巨大プール施設だ。


「藍の気合の入りようが怖い……最近死ぬほど暑いじゃん。ボクはおうちでのんびりしたいよ」


「えー、ダラダラしてたらそれだけで終わっちゃうよ? みんなでプールとか行けたら楽しいと思うなぁ。 あとはアイス食べてー、バーベキューしてー、お祭り行ってー」

「藍は元気だなぁ」


「まぁいいじゃないか。私も部活のない日は大体空いているから、基本的には藍の誘いに乗るつもりだ」

「真宵まで……」


「せっかくの夏休みなんだ。それに来年以降は受験を見据えることになるだろう。気楽に遊んでいられるのは今のうちだけかもしれないぞ」

「う……受験……」


 索理はやっとの思いで乗り越えた期末テストを思い出し、うへぇ、と舌を出した。そんな索理の頭にポン、と手を載せたのは藍だ。


「まぁまぁ、だからこそ今年は確定で目いっぱい遊ぶぞ、って話! サクはどこ行きたい? 海? キャンプ?」

「エアコンが効いてるのがマストだから、その二つは絶対に却下」


「では屋内施設のアスレチックなどはどうだ。確かこの近くにもあったはずだ」

「運動苦手ー……藍のとこで麻雀でもしようよ、ちょうど四人いるんだし」


 湯水のごとく提案を繰り返す二人と、そのことごとくを叩き落としにかかる索理。


「なぁ、お前ら……」


 やり取りの隙間に、新たな声が挟まった。


「ん? どうしたの? 未有ちゃんも行きたいとこある? わたしたちは楽しめるならどこでも行く気満々だし、今なら索理さえ口説き落とせば通るよ」

「いや、そうじゃなくて……なんでお前らの遊びの計画を、あたしの席に集まって立ててんだ?」


 未有の言葉通り、索理たちは窓際にある未有の席に集合していた。いつもの頬杖スタイルの未有が、不満を隠そうともしない半眼を三人に向けている。


「そりゃあ、黒河さんはいつもここから動く気なさそうにしてるし」

「未有ちゃんも一緒に遊ぶでしょ? 友達だし」

「黒河もインドア派なのだろ? 索理とは気が合うかもしれない」


 口々に言う索理たちに、未有は全力のため息を武器に応戦してくる。


「あたしを勝手に友達カウントするな。あたしはお前らと違って暇じゃねーんだよ」


「えー、でもサクのメイク講座はやるんでしょ? 地雷メイクがやってみたいわけじゃないけど、せっかくだから見学したいかも。……二人きりにしたくないし」


 藍は最後の一言だけを、索理には届かないようなボリュームで呟く。


「見学自体は別に構わねーが、それ以外で遊びに行ったりはしねーからな」

「流石に一日くらいは空くだろう? お盆付近は三人とも空いているんだ。プールでひと泳ぎといこうじゃないか」


「そうだよ黒河さん。可愛い水着持ってたでしょ」

「あれはSNS用だから外に着ていく気はねーよ。大体まだ遊びに行くとは──」


「四人で遊びに行く予定なんだ?」


 またしても別の声が割り込んできた。少し鼻にかかったような、優しげな男子生徒の声だ。


 索理たちが向ける視線の的になったのは、ベージュの髪をした長身の生徒だった。男子にしては長めの襟足をくるりと巻き、ダークな紫紺の瞳を覆い隠すような前髪を横に流している。


 クラスでもトップクラスに女子の注目を集める彼の名前は、横野奏士(よこのそうし)


「あ、横野くん」


 一番に反応したのは藍だった。


「そうだよー、みんなで新しくできたプール行こうかって話してて。ほら、最近やたらローカル記事で評判になってるやつ。ウォータースライダーとか、確定で楽しそうだよね!」

「奇遇だね、ちょうど俺たちも近いうちに行こうと思ってるんだ。よかったら一緒に遊ばない? ほら、人数が多い方が楽しいと思うし」


 奏士がそう提案した瞬間、周囲から複数の舌打ちが聞こえた。奏士に密かに思いを寄せるクラスメイトたちによるものだ。


 藍はそんな外野の反応に気付きもせず、ぱっと咲いたような笑顔で身を乗り出す。


「えっ絶対楽しいじゃん! 行こう行こう、横野くんたちはいつ行く予定なの?」

「えっと、今月の二十八日と、お盆くらいにもう一回行きたいって話してるんだけど、織部さんたちの予定はどうかな」


「ちょうどお盆に行こうかって話してた! 確定だね!」

「決まりだね。俺もこっちのメンバーに周知しとくから。楽しみにしてる。夕木くんたちも、当日はよろしくね」


 近くなったらまた連絡するよ、と言い残し、奏士は自分の率いるグループに戻っていった。


 次いで、ネチネチとした陰口が索理たちを取り囲む。なんであいつらだけ。私たちだってプール行く話してたのに。どうせ色目でも使ったんでしょ。


「……藍、私たちはまだ、彼らと一緒に行くとは言っていないのだが。特に意識しているわけでもないのに妬みの視線が痛い」

「あたしに至ってはお前らと遊ぶこと自体納得してねーからな」


「まぁまぁ、みんな一緒の方が楽しいじゃない。ねぇサク……サク?」


 真宵と未有に責任を追及されても、気にせずハツラツとした笑顔を浮かべていた藍。その藍の笑顔が、索理の表情を目にした瞬間──ぴきりと凍った。


「はっ……はっ……」


 夏とはいえ、教室内にはエアコンが充分効いていて快適な気温だ。にも関わらず、索理の顔からは滝のような汗が流れている。動いてもいないのに呼吸が乱れている。


「サク!? どうしたの、具合悪い!? 大丈夫!?」


 ガタガタと震える手を藍が握るが、索理の手からは温度が消失していて、氷のように冷たかった。


 両手で包み込んで温度を分け与えようとする藍だが、索理の震えは止まらず、一向に体温は戻らない。むしろ冷たさが藍にまで移ってしまうほどだ。


 まるで百鬼夜行の中心に置き去りにでもされたかのように、縮こまって目を伏せっている索理。


 その震えは、奏士が去ってから十数分の間、止まることはなかった。

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― 新着の感想 ―
コミカルな会話劇に笑ってしまいました。 真宵は索理を意識しているからこそ、勘違いしてしまったんですね。 索理と真宵の会話も絶妙にかみ合っていて最高でした。
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